遠い過去の記憶
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暗い聖堂の中で、そこだけスポットライトが当たったように、女の姿が浮かび上がっている。
女の髪は夜中に降った雪のように白く、肌も同じように真っ白で、ぴくりとも動かない。男はそれを大理石の彫刻のようだと思った。大理石の彫刻のようなソレが、本当は何かは知りたくなかった。
彼女の背中には翼がある。一対の翼がある。
その翼もまた白い。世界から切り取られたような純白の女。
天使種族、か。男は胸中で呟いた。
天使種族はその背にある大きな羽根が特徴で、それゆえに人間種族から天使と呼ばれていた。天使。天の使い。神の使いの種族。そこまで思い出して、男はかぶりを振った。
神がいるのなら、どうしてこんな事態になったのか問いただしたかった。
彼女の足下には血塗れのなにかが転がっていた。髪の長い。人間。でももうじき命もなくなり、人間だったものになるだろう、死体になりゆくヒトが転がっていた。
男は跪いた。彼女に祈るように。「何か」にすがるように。
「俺の願いはこいつを生かすこと――死なせないことだ」
彼女は反応を示さなかった。
「そのためなら、この世界全部がおわってもいい……」
大理石の彫刻の女が、天の使いの種族をかたどった人形がにんまりと笑う。
『世界ハ、少シズツ亡ビルダロウ。』
彼女が答える。その彫刻は確かに動き出し、指先が文様を描く。
男のつぶやきは、願いは、確かに叶えられた。足下の血塗れの物体が、まるで早戻しのように傷がふさがり血が体内にもどる。
まるで綺麗になったそれを男が抱きしめて叫ぶ――
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