愛を知らずに生きてきた主人公は小説家としての自分は必要とされるのに、高校生としての自分は誰にも必要とされないことに悩みながら、そんな思いを反映した小説を書いている。ある日偶然にも彼女の小説のファンだという後輩に出会い、幸せな日々を過ごすけれど、後輩との日々は彼女の小説を全く違うものに変えてしまい……。主人公自身を愛してあげたい、と思うと同時に、せめて彼女の作品だけは愛されればと切実に願いました。主人公の思いが痛いほど伝わる、素敵な作品です。
戦前の和風自然主義小説さながらなお話だった。皮肉といえば皮肉な内容である。ある意味でアンデルセンの『人魚姫』をも連想させる。 干からびた砂漠は過酷である。しかし、その砂漠でなければ生き延びられない存在もいる。主人公の悲劇は、自分は森や水辺が相応しいはずだと思い込んでいたところにあるだろう。それにしても、下級生は自覚のない小悪魔だ。普通、悪魔は芸術を守護するものだが、これは少し捻って芸術から外れた人間を糾弾する悪魔だ。主人公が、せめてオアシスにいきつけるよう祈ってやまない。