本編
タイトル:ケーキ屋の問題
作:白金 鉄(しろがね くろがね)
~本編開幕~
ナレーション「昼下がり。街は今日も騒々しく人々が歩いている。そんな街並みから少し離れ、片隅に慎ましく建っているケーキ屋があった。
店名はルブラン。4人のケーキ職人が今日も狭い店内で精を出している・・・」
店長「いらっしゃいませ。ケーキ屋、ルブランへようこそ」
おばさんA「すいません、この間息子の誕生日ケーキを予約した者ですけれど?」
太った男「あ~お客さんお久しぶりですね!息子さんの誕生日ケーキ、もちろん出来上がってますよ。
ところでお客さんロウソクはどうします?最近はロウソクと言っても結構可愛い飾り付けの物とか多いんですよ~」
老いた男「おーい生地に必要な卵が足りんぞー?この間買い足さなかったのかー?」
垂れ眼の男「んー?そんな事は無いはずですけどね…まぁ店長に聞けばすぐ分かると思いますよ。 店長! 店長!」
店長「聞いていたわよ、卵は昨日置くスペース変えたって言ったでしょ!」
ナレーション「ケーキ屋ルブランは客足は少ないが、4人はケーキ作りとこの店が好きで労働にも前向きに励む事が出来た。
・・・しかしそんなルブランにある日、一人の客が渋い顔つきで店に上がり開口一番にこう、言ってきた」
クレーム客「悪いけどこの店の店長いるでしょ?今すぐ来てくれませんか?」
店長「はい、私がこのケーキ屋の店長でございます。お客様どうかなされましたか?」
クレーム客「あなたの所でケーキを買ったのですが…率直に言いますけど、料理人はどういう神経してるんですか??
味は最悪だし生地に異物が混入してるし、挙句にはこれ。写真撮って来たんだけどそこのケージにあるケーキと見た目全然違いますよね?お客にこんな出来損ないを売って良いと思ってるんですか?」
店長「写真を拝見する限りでは確かに見た目が違いますが……ほ、本当に私たちのケーキがこの様になっていたのですか!?」
クレーム客「客を疑うって言うんですか?だったら良いですよ、ほら。あなた達のとこで貰った領収書。ここにちゃんとそこのケーキの商品名と、値段、買った日時・・・目がちゃんと付いてるなら見えてますよねぇ?」
店長「は、はい確かにそれは私共の領収書でございます…あっ、た、大変申し訳ございませんでした!」
クレーム客「申し訳ございませんでした………じゃあねーだろーがよぉ!!!金を返却するだけで済むと思うなーーー!!!」
ナレーション「クレーム客の怒号は1時間以上にも及んだ。そしてその後、一しきり叫んで満足したのか唾を吐き捨て、済ました顔で店を出て行った。
店長は最初はクレーム客の対応でドッと疲労感が押し寄せたが、次第にふつふつと別の感情が湧き始め・・・。
その夜、店長は3人を呼び寄せ緊急のミーティングを行った。威圧感の漂う険しい表情で」
店長「本当に信じられないわ…あなた達も聞いてたわね?アレだけお客様が大声で叫んでいたのだもの」
老いた男「えぇまぁ…ですが店長、あの客の言う事をそんなに真に受けなくても良いですよ」
太った男「そうですよ、それに今回たまたま起きただけですし…」
垂れ眼の男「同じく、ああ言う事は気にせず明日に備えましょうよ。自分もちょっと今は眠くて早めに帰りたいのですが…」
店長「真に受けるな?たまたま?帰りたい? ふざけないで!! こんな酷い失態がそれで済まされると思ってるの!?
大体あのケーキを作っていたのはあなた達よね!?一体何をしたらあんな事ができるの!!!」
老いた男「そう言われても…」
店長「あなた、いつも生地作ってるわよね?異物がどうして入ったの?お客様曰く、白くて硬い物だったそうよ」
老いた男「白くて硬い…あ、あー卵の殻じゃないかなー?もう歳で目が悪くなってるから混入したのに気が付かなかったのかもしれん」
店長「かもしれんじゃないわよ!
あなた、厨房に立っている時に時々気が抜けてたみたいだけれど、ちゃんと集中してケーキを作っていたの!?」
垂れ眼の男「え、えーっと、ちゃんと集中しているつもりですよ?ただ今日は偶然、偶然ぼーっとしたこともあっただけと言うか…」
店長「やっぱり集中できて無いじゃない!
あなた、ケーキの見た目が全然違うって言われていたわよ!何をしていたの!?」
太った男「いや~トッピングって地味に大変で、毎日綺麗に同じ飾りつけをするの結構疲れるって言うか、ちょっとぐらいならサボって減らしてもバレないかなーって…」
店長「………あなた達が如何に私の知らない所で怠業を行っていたか、よくよくわかったわ…これからみっちりと説教するから」
垂れ眼の男「ひぃっ…!こんな表情した店長、今まで見た事ない…」
ナレーション「店長は一晩中、彼らに説教をした。ありったけ言い聞かされた3人は完全に落ち込み、深く反省するともう二度と同じ過ちは犯さないと誓った。
店長もその後は自分も含めどうすれば良かったのか3人と相談し未然に防げるよう精進すると心に決めたのであった。
・・・が、それでは間に合わなかった。
このケーキ屋の問題は本人達の知らぬ所で記事にされ、瞬く間にそれが世間に広まってしまう」
太った男「朝刊のここ見ろ!いくら何でも言い過ぎじゃないのか?これは!?」
垂れ眼の男「小さな会社の記事だったら良かったんですけど、これ見てくださいよ。大手の新聞にも散々なこと書かれちゃってますよ」
老いた男「このまま、私たちは一体どうなってしまうのだろうか…」
ナレーション「一つの過ちは徐々に大きくなって行き、ルブランは世間から非難され始めた。それをきっかけに元々少なかった客足はパッタリと途絶え、代わりにケーキでは無くネタを求める記者が駆け込み、悲しい事に…
結果としてルブランは潰れた…」
店長「これで本当に終りね。夢もこうして潰されてしまったわ。世間も大きな見出しに乗った私を悪者扱いか。
もう閉じてしまおうかな…私の人生も」
ナレーション「店長は人知れず息を引き取る。誰にも知らせずに、だ。ルブランの3人が店長の永眠を知ったのは1日たった後のことだった。
そして残った3人は」
垂れ眼の男「これからどうします?俺たちもこのまま終わって良いんですかね?」
老いた男「私たちにはケーキ作りしかなかったからな、他の道を探すにしても厳しいだろう」
太った男「なぁ?このまま終わるのは何か癪に触らねーか?俺はあんまりにも悔しいんだよ」
垂れ眼の男「ですねぇ。前より厳しい道になるでしょうけど、俺ら3人なら何だってやっていける気がしますよ!」
老いた男「ふふふ。そうだな、世間からバッシングを受けても店が無くなってもまだまだ人生は終わりでは無いな!何よりここで終わってしまっては死んだ店長の無念も晴らせまい」
ナレーション「3人はまだ終わっていなかった。自分達の反省と後悔をバネにすると誓い合い、批判を真摯に受け止め合い、お互いを支え合い…
時が進んで3年後」
TVレポータ―「はい!こちら生中継でお伝えしております!ご覧ください、この長蛇の列!ただいま午前9時45分、開店10時前にこれだけの人が並んでいます!この列をずーーーっと辿った先にはですね…
今人気のケーキ屋『ルブラン』の看板が見えます!」
ナレーション「何とルブランは再び立ち上がる!
最初こそ疑問の声があった物の、三人が汚名返上のために修行し続けたケーキは美しく何より美味であり、その反響か今度は明るい話題の記事を作ってもらいあっという間にそれが世間に知れ渡たったのだ」
TVレポータ―「少し列に並んでいるお客さんに声を聞いてみたいと思います!おはようございます!今日は何故この店にお並びになったのですか?」
おばさんB「ほほほ。そんなの美味しいケーキを食べるために決まっているじゃない。私このケーキ屋には前々から目を付けていたのですのよ」
おばさんA「私なんてこのお店が改装される前から、息子の誕生日ケーキもここで注文していたのですのよ」
おばさんB「あら?初耳ですわ?そんな事言ってましたっけ?」
おばさんA「言ってましたわよ~。一時期は問題になったけれども、やっぱり私の目に狂いは無かったわ~」
TVレポータ―「凄いですね!こちらの方は常連さんとの事です!昔から人の心を掴むようなケーキだったということですね!
…ではここでお店の方に入って行きまして、ここで働く3人のケーキ職人さんにインタビューしてみたいと思います!
こんにちは!事件から数年、地道な活動から人気店になった今の気持ちをお聞かせください!」
老いた男「いや~60年以上生きた人生で最高の瞬間だよ。今は若い頃より生き生きしている実感があるね」
垂れ眼の男「辛い日々が報われましたよ。…おっと、寝不足のせいかな?ちょっと涙が止まらないですね…」
太った男「色々あったけど、ついに俺たちの時代が来たよー!これからもケーキ屋ルブランをよろしくお願いしますね!」
ナレーション「各々の歓喜に震える三人、それを見て感動する一人の客人が居た。その客は…何とあのクレーム客だった」
クレーム客「驚いた、本当に立派になったんですね」
太った男「げっ…お客さんは…」
クレーム客「あぁ、そんなに脅えないで。あの時みたいに文句を言いに来たわけではないのです。素直に応援の気持ちを伝えに来たのです」
ナレーション「クレーム客はあの時とは違い図々しい態度は無く、物腰の柔らかい態度になっていた。そして本音では早めに帰って欲しいと思っている3人に、クレーム客は遠い目でこう告げた」
クレーム客「今だから言える話、あの時のクレームは…実は、『全部嘘』だったのですけど、まさかあんな事になるなんて思いもしなかったです」
~ケーキ屋の問題・おしまい~
有象無象の空想:ケーキ屋の問題~声劇アレンジ~ 白金 鉄 @gakusyoku_555
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