短編18話  数あるお返しフクロウ

帝王Tsuyamasama

短編18話

「うぉりゃーっ!」

 おっし受け止めたぞ! ってうああ!

羽島はしまくん、大丈夫っ?」

「ってぇー……反撃だおらぁー!」


 体育の授業が少し早く終わったので、余った時間に男女混合でドッジボールをすることになった。中学生になってからこんな大人数でドッジすんのなんてなかなかなかったから結構新鮮だった。俺のチームは負けてしまったがっ。

 いや、勝負は楽しかったし負けたのはちょっとくやしいが、そんなことよりも……あの鳥戸とりど 結子ゆいことおしゃべりできたのが結構うれしかった。この俺、羽島はしま 雪成ゆきなりが敵のシュートから結子を守った甲斐があったぜ……! ……結局勝負には負けたけどな!!

 結子とは家庭科の調理実習で同じ班になってから、なんかしゃべる機会が増えてきたかなぁ。

 別の家庭の授業でもチャコペン貸してくれたり、玉止め教えてくれたり、テストの点数の話で盛り上がったりと、妙に家庭の授業で縁がある結子。

 おとなしくて、髪が肩を越すくらいで、声が高くて、物腰がやわらかいっていうやつだと思うし……なんか、うん、結子って呼びたくなったからそう呼んだら快くOKくれたし。

(……告白、しても……OK、くれるのかな……な、なんてな!)


 俺は体操服から普通の学生服に着替えて……ってうわ腕痛ぇと思ったら傷がっ。

 今は夏だから体操服もカッターシャツも半袖なんだよなー。うーん痛いから後で腕洗っとくか。


 今日の体育は四時間目だったから、今から給食の準備の時間だ。今日は給食当番じゃないので、遠慮なく腕を洗わせてもらおううひぃーしみるぅ!!

「羽島くん、けがしたの?」

 おぉっ、結子からしゃべりかけてきてくれた!

「こんなのけがのうちに入んねーぜ!」

 めっちゃしみてるけど!

「でも……」

 あれ、結子が蛇口をひねって水止めた。そのままの流れでスカートのポケットからハンカチが出てきた。

「ちょ、結子っ」

 急に結子が俺の腕を触ってきた! 今までいろいろ家庭の授業でやり取りはあったが、ここまでがっつり触ってくることなんてなかった! 俺のドキドキ急上昇!

「ておいおい結子っ」

 取り出されたハンカチで傷のところを優しく拭いてくれた。手ちっちゃいな。

「持ってて」

「あ、おう」

 俺はハンカチを持つと、今度は結子は胸ポケットから生徒手帳を取り出した。なぜこのタイミングでと思ったが、生徒手帳の中に絆創膏ばんそうこうを忍ばせていたらしい。しっかりしてるなー……

(うぉそんな大切な絆創膏が俺の腕に!)

「もいっこ貼っちゃえ」

 結子は遠慮なく二個目の絆創膏もぺたぺた。

「はいっ」

 最後に優しく絆創膏をなでて、結子の処置が完了してしまった。

「さ、さんきゅっ」

 こんなこと今まで同級生にされたことがなかったし、しかもあの結子からしてくれたとあっては、もう俺のドキドキ度はそら大変なことに。

「ハンカチ……あげる」

「ぇ?!」

 このうさぎ柄のハンカチのことですよね!?

「男の子が持つにはかわいらしすぎるかなぁ? 私の名前入っちゃってるし」

「い、いやいやそんなことはない! てかハンカチもらうとか、そんなっ」

「それ家庭の授業で作った物なの。よかったら羽島くんに持っててもらいたいな」

(ゆ、結子の、て、手作りハンカチ……!!)

「いいの、か?」

「うん、提出して返ってきた物だから、使っててほしいなっ」

 俺は改めてうさぎハンカチを広げた。確かに右下に『とりど ゆいこ』って書いてある。

 この授業のときはいくつかの候補から好きな物を選ぶことができて、俺はポケットティッシュのケースにしたんだよな。いびつな形になってしまったが。

「大切にする!」

 結子はにこっとうなずいた。

 その後給食の時間になるまで窓際で腕を乾かしながらずっとしゃべっていた。

 金曜日に体育の授業を設定してくれた先生ありがとうございます。髪がなびく笑顔の結子は……うんまぁその……コホン。


 給食もおいしく食べて、掃除の時間も午後の授業も終わり、帰りの短学活はいチャイム鳴って終わりー。連絡ノートに明日の授業の教科を書いて、カバンにぶち込む。さー部活行こ。

 みんなが席を立って教室を出て行く流れに乗るべく俺も扉へ向かった。が、同じく立ち上がった結子と目が合った。結子と目が合っちゃったらなぜかもっと結子を見てしまう。

「腕、大丈夫?」

「心配しすぎだって。でもいろいろやってくれてさんきゅな!」

 俺は改めて腕を結子の前に出した。絆創膏が……いや結子の笑顔が輝いている。

(待てよ……結子からこんなに俺のことを気にかけてくれてるってことは……もしかして明日、遊んでくれたりしないのだろうかっ!?)

 明日は土曜日。結子がいてる美術部のスケジュールとか全然知らないが、もしかしたら……

「な、なぁ結子!」

「なにっ?」

 結子はきれいなおめめで俺を見てきている。

「あ、明日ー……ひま?」

 ついに俺は結子を誘ってしまったっ!

 今まで学校でいろいろ仲良くしてくれていた結子。ひとつひとつの行動にどきどきさせてくれた結子。ついに俺は……!

「うん、ひまっ」

(きたっ!)

「じゃあさ! 明日遊ぼうぜ!」

 そして結子の答えは……!

「うん!」

(うぉーーーーー!!)

 俺は心の中で雄叫びを上げた。やべ表情にも出てたかも。

「それじゃあ明日朝十時くらいから……いいかな?」

「朝からとかむしろいいのかよ!」

「うん、どうせなら羽島くんといっぱい遊びたいよっ」

(おっしゃーーーーー!!)

 俺。生きててよかった。

「じゃな明日な!」

「ちょ、ちょっと待って羽島くん、どこで会うの?」

「あ」

 情けない声を出してしまった俺に結子はちょっと笑っていた。

「もぉー。今日の羽島くん、おもしろいなぁっ」

(結子と遊べることになってテンションおかしいことになってるだけなんですけどー!)

 結局朝十時に公園で待ち合わせして、それから結子の家へ行くという流れになった。結子の家へ行くという流れになった!! 結子の(以下略)

 朝絆創膏貼らないで来てねとも言われた。結子の家で貼り直してくれるらしい。俺の腕をぺたぺたしてきた結子のちっちゃな手を思い出した。



 次の日、土曜日



 俺は今日いつもよりだいぶ早めに起きてしまった。

 なんてったって今日はあの結子と遊べちゃう日だからな。体中全身の細胞たちがテンションMAXに違いない。

 前々から結子の存在は知っていたが、今年同じクラスになって一気に仲良くなれたんだ。毎日結子を眺めてしまうこの気持ちは……紛れもなく……あれ、だよなぁ……。

(えーい! ならば今日、一世一代の大勝負だー!)

 この俺の気持ちを伝えるにふさわしい一日なはずだ! おし!

(うーんしかしどうしよう。なんかいい方法はないだろうか……)

 俺はとりあえず自分の部屋を見回しながら考えた。

(……昨日ハンカチもらったから、こっちからもなんかあげるか……?)

 というのを思いついたものの、ぱっと他人にあげられるような物がこの部屋に

(あったーーー!!)

 フクロウ! そうだお前だ!

 説明しよう! このフクロウは、いとこの兄ちゃんによってゲームセンターに連れてかれて、普段俺全然やらないクレーンゲームなのに、なんと一発で取れてしまったもふもふぬいぐるみ兼実はポケットティッシュ入れであるっ!

 小型だから机に立て掛けておいたものの、特にぬいぐるみをもふもふするわけでもない俺なのでまだまだきれいな状態だ!

 ちょっとだけほこりを払って……

(……そうだっ!)

 俺はいったんフクロウを置いて、紙紙紙ぃ~。

(ああまぁこれでいっか)

 遊び道具の中から折り紙セットが見つかった。テッカテカの金色を出す。このままだと大きいので、はさみでちょきちょき。

(すぐに言うのも緊張するし……こうしてこうしてっと……)


『結子のことが好きです。よかったらつきあってください。  羽島雪成』

(……勢いでこんなこと書いてしまったけど……い、勢いが大事だよな! 結子のこと好きな気持ちはもう散々今まで溜めまくったよな! おし!)

 俺は書いた折り紙をてきとーに折って、フクロウのティッシュが入ってるとこの奥底に入れ込んだ。


 俺は朝ごはんを食べ、意味もなく自分の部屋をふらふらしてたかと思ったら珍しく宿題を熱心にし。そんなこんなでそろそろ出かける時間になってきたので、準備を整えて、カバンにフクロウをちゃんと入れて! 家を出た。


 今日はとてもいい天気だ。暑いけど。まだ俺の腕には傷が。昨日の夜にはがした。痛かった。


 難なく公園に到着。

(え、もしかしてあのベンチで座ってる女子が……)

 近づいてみると、やっぱりっ!

「おはよう、羽島くん」

「お、おはー!」

 水色の……ブラウスって言うんだっけ? に、長くて白いスカート。靴は白にピンクのラインが入ったスニーカー。普段の結子ってこんな感じなのか……。

「さ、早速だけど結子! 渡したい物があるんだ!」

「えっ?」

 俺は忘れぬうちにといそいそとカバンを開け、フクロウを取り出した。

「ハンカチくれたから、これやる!」

 右手でフクロウをつかみ、結子の正面に見せた。

「えっ、そんな、いいのにー」

「俺が持ってても机に飾っとくだけだし、持っててくれっ」

 と言いながら、左手でポケットから昨日もらったハンカチを取り出して言ってやった。

「……じゃあ、もらっちゃおうかなっ」

 結子は両手で優しく受け取ってくれた。

「かわいーっ、ありがとう……あれっ、これティッシュ入れなの?」

「ふふん。驚いただろう!」

 結子はフクロウをすべすべしてにこにこしている! よかった!

(いや! あの中には俺のすべての想いが……というかもう後戻りできないよな……!)

「私もこのフクロウちゃん、大切にするねっ」

(あぁ……結子の笑顔がまぶしすぎる……)

 今日も結子は素敵だった。

「それじゃあ羽島くん、行こうっ」

 両手で大事そうにフクロウを持ってくれている結子が、ベンチから立ち上がりながらそう言ってくれた。

「お、おうっ!」

 そういえば結子の名字って鳥戸だったなぁ。フクロウとは鳥つながりだったことに気づいたのは今だ。つくづく俺って勢い任せだなぁ~。

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短編18話  数あるお返しフクロウ 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho

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