森の中のサギ 【※KAC1「切り札はフクロウ」】

亥BAR

第1話 森の中のサギ

 日はすっかり落ち、月夜になる。だが、たくさんの木々で埋め尽くされた森の中には月明かりも届きにくい。

 ただ、微かに木々の間から黄色い月が見えるばかり。


 シンと静まり返る夜、風が吹くたびに森が不気味に鳴く。

 少年、裕太は想定外の状況に身を震わせた。


「に~ちゃん……」

 そんな裕太の裾を握り締める小さな弟、洋太。今にも泣きそうな顔で見上げてくる。裕太も同じような顔をしたいが、ガマンして洋太の頭に手を置く。


「だ、大丈夫! へ、へへっちゃらだぁい」

『パキッ」

「ギャァアアっ!?」

「ふぇええ!?」


 急に足元から聞こえてきた音に飛び上がる裕太の心臓。だが、よく足元をみると折れた木の枝が。


「って、俺かい! びっくりさせんな、チクショウ! いや、びっくりなんかしてねえぞ、チクショウ!!」

『ギャァギャアギャア!! バサバサッ!!」

「ごめんなさい。ごめんなさい。なんでもします。なんでもします」


「……に~ちゃん」

 イキナリ飛び出した鳥の鳴き声と音に頭抱えている裕太を、見つめる我が弟、洋太。なんか、さっきと見る目が違う気がする。


「だ……だだだだだだだいじゅ……へへへっちゃりゃ………………、もんんだいなち…………」

 裕太は観念して洋太の肩に手を置いた。

「……OKだ」


 洋太はよけい心配そうに見てくれた。


 もう、どうしようもない。裕太は思い切って、洋太の手を握ると前に向かって歩きだした。

「こ、ここで待っててもしかたない……行こう! に~ちゃんが付いてる!」

「どっちへ行くの?」


 …………。

 裕太は辺りを見渡し、果たして自分が来た方向がどちらか、森の出口がどこか探すこと数秒。

「洋太……に~ちゃんより冷静だね」

「に~ちゃんを見て、ぼくがしっかりしなきゃと思った」


 お母さん、お父さん。あなたの息子さん(弟)は立派に成長しています。


 なんて言っている時だった。

『ホーッ、ホーッ』

「ぎゃ……あ……あ安心しろ洋太」

「……」


 洋太から冷たい視線を貰いながら、音がした方へ振り向く。すると木の枝になにかの影が見えた。

 木々からこもれる月明かりをバックに出来損なったダルマのようなシルエット。


『ホッホーッ、ホッホーッ』

 なんとも特徴的な声。


「もしかして……フクロウ?」

「おぉー」

 状況を知ってか知らずか目を輝かせる洋太。どうやらこの子は成長と同時に恐怖を忘れ始めたらしい。


「野生なんて……初めて見た」

「……いや、に~ちゃんもそうだけど……」


『ホーッ、ホッホー!』


 独特な声で鳴き続けるフクロウ。なんというか……

「なぁ、あれ。なんか俺たちのほうを見てないか?」


 はっきりとは見えないがフクロウがじーっとこちらを見つめているようなきがする。そして、再び鳴く。


「フクロウさん……俺……美味しくないよ」

「といって、僕を前に出すのはやめてよ、に~ちゃん」

「……わり」


『ギャッギャッギャア!!』

「「ごめんなさい!!」」


 うわぁ、なんかフクロウが急に別の鳴き声をだしてきた。

 

 ホーッという鳴き声が喉の奥から出ている深い感じがするのにたいして、さっきのは前に突き刺すような鳴き声。叫び声といった感じだろうか。


 ……あんな怖そうな鳴き声までするのか……。


 フクロウはその場所から飛び立つどころか一歩も動き出そうとしない。だが、ついにフクロウが鳴き声以外の行動をし始めた。


 くるりと顔を後ろに回転させる。ちょうど裕太たちが向いている方向にフクロウが顔を向けたのだ。

 そして、再びくるりと顔を裕太たちに向けなおす。


『ホーッ!! ホーッ!!』

 で、裕太たちに向かって鳴く。それを何回も繰り返し始めた……。


「ね~、に~ちゃん……」

 しばらくそんなフクロウの様子を見ていると、洋太が裕太の裾を引っ張り出す。

「あのフクロウ……僕たちを道案内しようとしてくれているんじゃない?」


「……はぁ?」

 唐突にそんなことを言い出す洋太。

「そんな馬鹿な。おとぎ話じゃあるまいし。フクロウだぜ? 鳥だぜ? 鳥頭だぜ? バカだぜ?」

『ギャアッ!!」

「ごめんなさい賢いです天才です人間サマよりすごいですフクロウサマ」


 あのフクロウ、人間の言葉理解してるんじゃなかろうな?

「でも、他に手がかりないよ? ついていくしか……」

「っていってもなぁ……」


 正直、フクロウが道案内ってどう考えても現実味がない。コウモリならまだしも……なぁ……。


 なんて、渋っているとき、今日一番の強風が吹き出した。それに伴い、比較的静かだった夜の森も大きく騒ぎ始める。


 たくさんの鳥が木々からと飛び立つ音。それにより揺れる木々の音。草むらで飛び上がる動物の鳴き声。それにより擦れる草葉っぱの音。


「……ついて行くか」

 マジ怖いし、とまでは兄として言うわけにはいかなかった。


 そして、裕太と洋太二人は手をつなぎながらゆっくりとフクロウがいる方向に歩み始める。

 すると、フクロウは翼をはためかせ枝から飛び上がった。


 なんだ、結局ただのフクロウか……、そう思ったのだがフクロウは裕太たちの前にある次の枝に飛び降りる。


『ホーッ!!』

 こちらに向かって鳴く。


「に~ちゃん、本当に案内してくれるみたいだね」

「……マジかよ……何者だ、あれ……」


 しばらく、フクロウの行く先を追いかけた。フクロウはまるで裕太たちが付いて来ているか確認するように所々の木の枝に止まり、振り返る。

 そして鳴く。


 すると、だんだん奥のほうに見覚えがある場所がでてきた。

 慌ててその場所に駆け寄ると、そこにはアスファルトの道。しかも、裕太が確かに知っている道だ。

 もう、自宅まで数十分歩けばつく。


「ほっ……よかった」

 ようやく安堵しアスファルトにへたり込む。本当によかった……助かった。


 森を抜けた空を見上げる。今日の夜は天気がいいらしく、月あかりが隠すことなく裕太たちを照らしてくれている。

 きらめく星が助かった裕太たちを祝福してくれるよう。


 すると、そんな裕太の横をすっと洋太は通り抜けた。アスファルトの道を横切り、向こう側にあるガードレールに向かっていく。

 そして、そのガードレールにある柱の一つにあのフクロウが止まっていた。


 キリキリキリッと首をかしげるように回していくフクロウ。

「へへ~、ありがとう。フクロウさん」

 洋太が手をフクロウに向けて振っている。実に無邪気な姿だったか、こればっかりはこのフクロウに礼を言わなければ。

 そう思い、裕太も立ち上がりフクロウによっていく。


『ホーッ、ホッホーッ!!』

 鳴き声を上げるフクロウ。それに礼を言おうとした裕太だった。


 が、……フクロウ……じーっと裕太の目を見てくる。

『ホーホーホーホーホーホーホー』

 ひたすら、じーっと見つめてくる。

『ホッホーホッホーホッホーホッホー』


「なに……なに、なにこれ……? に~ちゃん」

 霞一つ無い月明かりをバックに突然激しく鳴き始めるフクロウ。さすがに怖がる洋太。無論裕太にも計り知れない恐怖心が湧き出てくる。


『ギャアッ! ギャアッ! ギャアッ! ギャアッ! ギャアッ! ギャアッ!』


 震える洋太を抱え込むようする裕太。裕太自身も震えが止まらない。


『ホーーーーーーーーー…………』

「に~ちゃん……」

「だ……だいじょ……」





















『ホケキョ!!』


「「ホケキョっ!!!?」」



















「「完!?」」


















???『ホー……ホケキョ!』


 信じるか信じないかは……あなた次第!

「「都市伝説!?」」

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