切り札はフクロウ

湖城マコト

天敵襲来

 「Crow(烏)」と名付けられた巨大隕石が、遥か宇宙から地球目掛けて一直線に向かってきている。

 衝突すれば地球滅亡は免れない。世界は国家の垣根を超えた巨大隕石対策チームを結成、事態への対処を開始することとなった。

 前代未聞の有事であるが、巨大隕石の襲来を比較的早期に観測出来たことは不幸中の幸いだ。人類にはまだ、様々な策を巡らせるだけの猶予が、生存の可能性が残されている。


 有識者たちによって対策会議が行われる中、試作段階である巨大ビーム兵器の性能を向上させ、隕石を破壊しようという案が浮上。理論上、隕石破壊に必要な威力が実現可能であること、他に巨大隕石に対して有効的な案が出されなかったこと等から、巨大ビーム兵器使用の方向で、対策チームの指針は決まった。


 巨大隕石「Crow」の地球圏襲来までに残された時間はおよそ半年。

 対する巨大ビーム兵器の完成までには5カ月の期間が必要と想定されている。進捗状況に遅れが生じる可能性もあり、状況はギリギリだ。時間との勝負といえる。

 巨大ビーム兵器の完成が間に合わない場合の保険として、廃棄された巨大な宇宙ステーションを隕石へぶつけて軌道を逸らせる計画も同時に進められているが、計算上、この作戦では隕石の軌道を完全に逸らすことは難しいと思われる。

 人類存亡の道を切り開くためには、やはり巨大ビーム兵器の開発を急ぐ他ないのだ。


 162日後。

 巨大隕石「Crow」の地球圏襲来を前に、巨大ビーム兵器は完成した。

 地上基地に建造された、巨大な塔を彷彿とさせる、天を仰ぐ巨大な銀色の砲身。

 発射の瞬間に周辺に凄まじい衝撃波が発生するため、離れた指令所からトリガーが引かれる。


 巨大ビーム兵器の名称は「Optimization Wizard Law」

 対策チームの間では、「OWL(アウル)」の略称で呼ばれている。

 

 巨大ビーム兵器の略称に合わせて、作戦に参加する者達の間ではある合言葉が浸透していったという。


 合言葉は「切り札はフクロウ」。


 地球の命運は、天を見上げる巨大なフクロウへと委ねられている。


「間もなく作戦を開始する」


 作戦指揮を任された壮年男性の言葉に、現場の緊張感が一気に高まる。

 「OWL」の砲身はその構造上、二射目というものを想定していない使い捨ての兵器だ。故にチャンスは一度きり。泣いても笑っても、この一撃で全てが決まる。


「カウント開始――10、9」


 発射のカウントが開始される。

 大役を任されただけあり、トリガーに手をかける若い男性の表情はとても冷静だ。


「発射!」


 指揮官の言葉と共にトリガーが引かれ、極太のビームが「OWL」から発射。

 遥か宇宙より迫る巨大隕石「Crow」目掛けて天を昇っていく。

 タイムラグの後、発射の際に発生した衝撃波が指揮所へも到着。指揮所全体が微かに震動した。


「ビームの『Crow』への着弾を確認。破壊成功です!」

「今後細かな破片が地球へ襲来する可能性はありますが、全て衛星軌道上の防衛システムで破壊可能なレベルとのこと。危機的状況は回避されました」


 オペレーター達の言葉を受けて、指揮所内は歓喜に沸いた。

 誰もが近くの人間と抱き合い、涙を浮かべたり、労いの言葉をかけあったりしている。


「脅威は去った。以上をもって作戦を終了――」


 指揮官が作戦を終了を告げようとした瞬間、「OWL」を映すモニターから轟音が響いた。ビーム発射の衝撃に耐えられなかった「OWL」が役割を終え、自壊を迎えようとしているのだ。


「切り札はフクロウ!」

「切り札はフクロウ!」


 地球の危機を救ってくれた巨大ビーム兵器「OWL」の最後に、指揮所にいた者達から、次々と作戦の合言葉が飛び出した。


「切り札はフクロウ……」


 「OWL」が崩れ落ちる瞬間、指揮官も合言葉を発し、目を伏せた。


 かくして地球滅亡の危機は回避され、人類に生存の道が開かれた。

 巨大隕石「Crow」を破壊した「OWL」の名は、切り札となってくれたフクロウの存在は、この作戦に関わった全ての者達の心に深く刻まれている。


「以上をもって作戦を終了する」




 了

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

切り札はフクロウ 湖城マコト @makoto3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ