理由をください

フカイ

掌編(読み切り)




わたしの友達には、いつも評判の悪いひと


柔和でハンサムな顔つきがかえって憎らしいのか


それとも仕事が出来すぎるところが嫌われるのか


彼女達はあなたの悪口をつまみにして、


アルコールのグラスを次々空にしてゆく





女さんにん集まって、かしましいタイ料理屋さん


ホットなトムヤンクンと仕事の愚痴の後はいつも、


あなたの悪評


曰く、


わたしが騙されてる、


このあいだ、他の女と連れ立って歩いてるのを見かけた、


どんな女と付き合ってきたかわかりゃしない


昔のひどい噂もよく聞くし





わたしはいつも、そういう意地悪を、


ニコニコしながら聞いている


そうかしらね、やっぱり騙されてるかしら?


わたしも見たのよ。なんかキレイな人と歩いてるトコ。


性病とか持ってないといいけど。。





けど、本当は彼女達の忠告なんか何ひとつ、耳に入ってない


悪口は全て、小鳥のさえずりと一緒


ねたみやそねみは、本当はあなたへの憧憬の裏返し





だって


わたしはこんなにも、あなたに惹かれてるのだもの


あなたはわたしの探し求めた、わたしの欠片


わたしという、不完全なパズルを埋めることのできる、


唯一のピース


そしてあなたにとってのわたしも同じ


あなたが貧乏だろうと、不細工だろうと、女たらしだろうと、


そんなことは問題ではない


これから誰と恋に落ちても、


あなたのように、わたしの欠落をふさいでくれる人はいない





―――だから教えて


どうしていま頃、現れたの?


結婚までしたわたしの前に、


どうしていまさら、あなたが現れたの?





ねぇ、おねがい


もう、何もいらないから、


どうかこの、ざわめく心を落ち着かせられる、


その理由を


わたしに頂戴





そしたらもう、


誰に何を言われても、気にしないから


主人にうそをつくのだって、平気になるから





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