どの時代にも象徴的なヒーローがいましたが
この物語には、ヒーローの歴史を編み込んだような特徴的な主人公が存在します。
それが主人公のファンです。
明るく朗らかで、のほほんとした雰囲気の彼ですが、能天気な素振りの裏には、知性と真っ直ぐな使命感を持っています。
権力と暴力を身にまとう悪い大人に、ファンが知恵と勇気で立ち向かい、見事勝利する姿はとても爽快です!
そんなファンの相棒は、姉と慕う年上の少女エル。二人の間には信頼という絆がしっかり結ばれ、ギャグやエロに走ることなく、洗練された感情で思い合う姿が綴られています。
主人公たちは一貫して「権力と暴力による制圧」を「知恵と勇気と愛情」によって鎮火させていきます。ですが普通にやると内容が薄くなってしまいます。この物語がそうならないのは、作者様による構成のうまさが根底にあるからです。あっと驚く仕掛けや展開に唸ることでしょう。
この物語の面白さは、まず何より「わかりやすい」ことだと思う。
文章もだけれど、「物語が難解でない」という点で。
この話には、難しいことは、おそらく何処にも置かれていない。
なのに、読む側に考えることをやめさせない、やめたくないと思わせる文体と展開。
それぞれのエピソードに丁寧にまかれた謎の種の育つ様はとても骨太で、物語を色とりどりなパズルのような知的な構造に仕上げており、その妙味は全く失われない。
簡単に言えば、「なんておもしろいおはなし!」という言葉に尽きる。
などという面倒な御託はさておいて。
女性が剣になる?
大好きですね?
「おもいのつよさ」「遣い手と剣の繋がり」、そんな「互い」の心の在り方こそが真の強さになる?
最高じゃないですか?
それぞれのエピソードの感触は、どれもふわりと風のように軽くて、まるで主人公のありようそのもの。
けれどその軽さが、物語を通して貫かれる「確固たる重み」あればこその軽さであることを、読み進めるうちに自然に感じ取れる。
好みです。大変好みです。
これを書いた現在、彼等の夢をかなえる旅はまだ終わりの気配はなさそうです。
が、それはつまり、彼等の披露する「美し芸」を、特上の席で見る楽しみも、まだまだあるということでしょう。