第6話

(……ボトル?)


 宙を回転しているそれは水の入ったボトルだった。

 太陽の光をキラキラと反射させ、光はオレンジから、やがて赤へ。

 閃光がボトルを焼いた。

 高温は水を沸騰させ、発生した白い蒸気は閃光が容器を融解させるよりも早く内部に満ち、爆発を起こした。

 水蒸気爆発。乾いた荒野に白い花の様に咲いた蒸気はレーザーを拡散し、減衰させ、スーツに着弾する頃にはレーザーポインターのような弱い光となっていた。


「生きてるか! マックス!」

 時間が元に戻り、マックスは何者かに首根っこを掴まれて引きずられている自分を認識した。

「なんとかな……」


 携行型M4重機関銃の五月蠅い音が聞こえた。

 ジェリコが戦っている。ジーンがマックスの介抱をしている間、注意を惹きつけてくれているのだ。

「あっちは倒したぜ」

 ジーンがマックスの背後にあるバッテリーを手動交換しながら言った。

「ちょっと遅いんじゃないのー? リーダーさんよ」

 怪我をしているマックスに向けて軽口を叩くジーンであったが、それはいつもの事だ。

 危機的状況でも陽気に振る舞ってくれる姿がマックスをリーダーとして奮い立たせるのだ。

「おれのツキにツキまくった投擲に感謝しろよな! うおッ危ねえ!!」

 無線越しにジェリコの声が聞こえた。どうやらボトルを投げレーザーを防いだのは彼のようだ。


 ダイナーで倒れている間に首筋から自動投与されていた鎮痛剤が効き始めていた。

「動けるか?」

「どうかな……まぁ無理にでも動いてやるがな。自分で止めを刺さなけりゃ気が済まない。お前らに美味しいところを盗られてたまるかよ」

 右腕は相変わらず動かない。アサルトライフルは既にお釈迦。

 右足は鎮痛剤と人工筋肉の補助走行モードのお陰で動かせる。マックスはバイザーを開き、口の中の血を吐き出すと再び閉め、立ち上がって見せた。

「そうこないとな!」


「おい! まだか!! 早く援護しろよ!!」

 遮蔽物に隠れながら応戦するジェリコが叫んでいた。

「だそうだ」

「ジーン、レールガンは撃てるか?」

「いつでもいいぜ」

 動かない右腕の関節をロックし、邪魔にはならないように固定する。

「いくぞ!」

 マックスは己の筋肉と人工筋肉を躍動させて駆けだした!


Beep!Beep!


 復帰したマックスに反応したグラスホッパーが大口径弾を連続射撃!

 マックスは流れるように体を動かし、回転し、跳躍し、壁を蹴って動き続けた。


 AIは優先的脅威度分析から点火型杭打ち機が電界装甲を構わず自身を破壊する力を持っていることを知り、マックスの排除優先度を引き上げていた。


 グラスホッパーはチャージの完了したレーザー砲をマックスに向ける。喧しいロックオン警報とアラート表記、しかしマックスはその警告を無視して突撃した。

 グラスホッパーのカメラはマックスの背後、廃虚の影に輝く、淡く青白い光を捉えた。

 それはジーンのF&B社製E03式超電磁加速銃の発射光だった。

 レーザー砲が閃光を放つよりも一瞬早く、加速して打ち出された弾体はレーザー砲の砲身から内部へと進入 した。


KABOOM!!レーザー砲を内部機構から破壊、爆散した!


Beep!? Beep!?


 大きくよろめくグラスホッパー。

 マックスは跳躍し、止めを刺しにかかる!

 だがいまだAIと姿勢制御装置は健在!あの蹴りを再びマックスに叩き込むために関節が動き始めようとしていた!


Blam blam blam blam blam blam blam!!


 ジェリコの携行型M4重機関銃による援護射撃!

 爆散したレーザー砲はすぐそばにあった電界装甲発生装置も損壊させていた。

 暴力的金属豪雨はグラスホッパーの迎撃姿勢を崩しよろめかせた!


「喰らいやがれ! ジャンク野郎!!」


 マックスの左アッパー!ナックルガード型の引き金が作動し炸薬が燃焼、太く鋭い特殊複合杭を押し出して射出した!


CLASH!


 撃ちだされた杭は装甲、そして内部の制御系を貫き、破壊した!

 杭打ち機から吐き出された薬莢が乾いた音を立てた。

 グラスホッパーは糸が切れたように力が抜け崩れるようにして倒れた。

「ち、致命……ソ損傷、損傷ヲ……」

 バチバチと火花を散らすと沈黙し、それ以上喋ることは無かった。


 マックスは安堵のため息を漏らし、正真正銘ジャンクとなった塊から杭を引き抜くとその場に座り込んだ。

「痛っ! 痛……てぇ!」

 もはや鎮痛剤では抑えきれないほどの激痛がマックスの体に押し寄せていた。

「あーあー、無理するから」「一対一でよくやるぜ。俺とジーンに任せときゃいいものを」

「最後までやりきらなぁーーーーーー!?」

ジェリコが笑いながらマックスの背中を叩いていた。

「まぁ辛かったけど、二機分の報酬に二機分のジャンク! 売っぱらってパァーっといこうぜ! 派手にパァーっとよ!」

「おい……おれは怪我人だぞ……!」

「あ、あぁ……すまねぇ、ついな」


 三十分後、狩りが終了した合図を受けて廃墟にトラックが現れた。

 側面のドアには行書体を思わせる「三」の文字。

「装甲猟兵」と書かれた旗を掲げていた。


 マックス達の傍に停車すると中から勢いよく若い女性が飛び出してきた。

「待ちくたびれたよー」

 ゴーグルとつなぎを着た彼女こそが装甲猟兵の三番であり、戦う三人のサポートするミヤコその人だ。

 疲労でへたり込むマックス達には目もくれずジャンクとなったグラスホッパーに駆け寄った。

「おー! 本当だ! グラスホッパーが二体! こりゃ儲けもんだねぇ、ミヤコは嬉しいよー……ってなんでこっちの一体は穴だらけなん? これじゃほとんど鉄クズじゃないかぁ……」

「そっちのはジェリコと二人がかりでしこたま弾丸ブチ込んでようやく止まったからな」うな垂れて落ち込むミヤコにジーンが言った。


「なんで? 三人でやればいいじゃん? そのためのパイルバンカーじゃん?」

「おま……二体だぞ!? 二体! それも同時にだ! こちとら死ぬ思いでなんとか狩ったんだぞ!?」ジェリコが明らかに不機嫌そうにしして眉間にしわを寄せながら言った。

 ミヤコは聞いているのか聞いていないのか、さっそく目の前のジャンクを漁り始めていた。


「まぁ、主に死ぬ思いをしたのはマックスだけどな」

「マックス怪我したん? マックス死にそうなん?」

「生きてるよ……早く病院に行きたいんだが……」

「大丈夫、大丈夫、話せるうちは心配ないよ!」

 ミヤコは無邪気な笑みを浮かべながら言った。

「それは怪我してない人間が言うセリフじゃねぇな……」

呆れた様子で言うジーンの隣でジェリコが何か言いたげにミヤコを見ていた。


「どしたのジェリコ? 真剣な顔して?」

「お前よう……最近、蛸食ったか?」

「食べたよ! ここに来る前にさぁ、三人でさぁ……っ……」

 ミヤコの動きが止まった。

「食べたんだな。ここに来る前に」

 ジェリコの鋭い目線が突き刺さるように向けられた。

「三人で食べたんだな」

「ど、どうかな。記憶違いかも……アハハ」「そうそう、それにお前は蛸嫌いだろ?」

「ごまかすな! あぁそうさおれは鱗も骨もねぇ蛸が嫌いさ! 言いたいのはそこじゃねぇ! なんで! おれが! そこにいないかってとこだよ!」

「だってお前、酔って寝てて。いくら声かけても起きなかったじゃねぇか!」

「いいから……病院……」

「寝てても、引きづってでも連れてぐのが仲間ってもんだろうが! 誘えってんだよ!」その目には涙が浮かんでいた。

「うわ、面倒なのがはじまったぞ」

「マックスー! お前リーダーだろ、なぁ? なんで放っておくんだよー!」

「後で……後で説明するから……病院に」

 ジェリコがマックスを容赦なく揺さぶるものだからマックスの首は力なくグラグラと揺れた。

「病院……」

「ジェリコがマックスに夢中な内にはやくガラクタ共をトラックに積んじまおうぜ」

「そうだねー」


 彼らは四人組の傭兵。

 金と引き換えであればどんな兵器でも狩る。

 北の雪原で黒煙を吐く小型浮遊兵器群を。南の海で潜航し船を襲うサメ型潜水艇を。


 そして自分達を装甲猟兵と名乗った。

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アーマード・ハンター 雅 清(Meme11masa) @Meme11

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