恋人

 君と秘密を分かち合いたくて、僕は色々なことを考えました。何かを共有している満足感というものを、君と味わってみたかったのです。


 ただ、僕には打ち明けられる秘密は何一つなかった。打ち明けられない訳じゃない。困ったことに、秘密らしい秘密がないのです。


 だから、僕の秘密ではなくて、君の秘密を探すことにしました。君はとても素直で純粋な人だから、秘密が見つからないかもしれないけれど。



 ……もう一年も君を「ただ見て」います。臆病な僕には華やかな世界に生きる君に話しかけることなど怖くてできません。でも、君を絶えず見守っていれば、君の秘密を知ることができるはず、そう思ったのです。


 残念なことに、君は僕の思った通りの人物でした。君はあまりにも裏表のない人物で、隠し事なんてしない質だし、隠していることだってせいぜいプリンをつまみ食いしたくらいの、くだらないことばかり。


 だから、僕はあきらめて素直に自分から想いを告げることにします。


 ところで、いつも君の隣に居るあの男性は、一体誰なんでしょうね?


 今日は、君の背中がやけに遠く見えます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あふれる、かなしみ、あふれる 北村すみれ @tanimura_koyomi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ