天気的春

亜済公

天気的春

 朝起きた僕は、窓を開け、春になっていたことを知った。昨日までは秋だったのに、随分とせっかちだな、とそんなことを思いながら、僕は着替えを済ませると部屋を出た。

 朝食はパンだった。ニュースでは桜が満開になったことを報道していて、今日の春度は15.7春だと言っている。春々しい春だ。

「今日は仕事も休みなのでしょう?」

 と、妻は言った。

「ああ、そうさ。春だからね」

「それじゃあ、あとでお隣さんに桜餅を届けておいて」

 僕は頷いた。妻の顔も、春になっていた。今日は春なのだ。



 外へ出ると、思ったとおり素晴らしい春だった。隣の家の表札も、やはり春になっていた。

「どなたかしら」

 インターホンから聞こえてきたのは、春さんの声だ。今年142歳になる、お婆さん。

「桜餅持ってきました」

 おやまあおやまあと繰り返しながら、お婆さんは出てくる。お婆さんの顔も春だった。

「おやまあ、これは美味しそうだわ」

 お婆さんにも食べやすいよう、桜餅はうんと柔らかく作ってあった。まるで雑炊を握ったような外見をしている。僕は吐き気をこらえて、なんとか役目を終えた。



 それから僕は、あたりを適当にぶらつくことにした。街は春一色だった。春らしい春。春であり、春である。

 道行く人も、犬も猫も、みんな春だ。

 ああ、春。

 僕らの春。

 明日は夏が来るといいな、とそんなことを思いながら、僕は自分もまた春と化していることに気がついた。

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天気的春 亜済公 @hiro1205

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