エピローグ

 文化祭は盛況の内に終わり、三味線も――いや、長浜ロック三味線もまた例に漏れず大盛況だった。


 あの時の演奏を撮影していた生徒が居たらしく、個人情報もなんのその、動画投稿サイトにアップしたことで一気に話題となった。


 SNSではハッシュタグが作られ、それがトップに来るほどの勢いだった。


 それに、地元の新聞にも取材されて一躍、時の人となれた。



「期待の新星 長浜の三味線文化を若者に伝える『長浜ロック三味線』」



 そう銘を打たれて、いつの間にか私は三味線初心者ではなく『三味線のプロ』として紹介されたのは笑ってしまった。


 「まぁ、世の中そんなもんだよ」と笑う吉川くんも、やけに印象に残った。


 文化祭が終わってからは、吉川くんの家に三味線を習いに行くこともなくなった。


 元々、忙しい合間をぬって三味線を教えてくれていたので、これは仕方がないことだ。


 今はお祖母ちゃんの部屋で、在りし日の姿を模すように私が三味線を弾いている。


 母もその姿を見て「あの景品が、まさかこんなことになるなんて」と笑った。


 でも、楽しいからいいのだ。


「…………ん?」


 今日も三味線を弾こうと調弦していると、スマホが鳴った。


 相手は吉川くんだった。


「もしもし」


『もしもし。今、電話大丈夫?』


「大丈夫だよ」


 電話の向こうから三味線の音が聞こえる。


 どこかで練習を見ているのだろうか?


『今、文化ホールに居るんだけど、そこで県の人と話す機会があって』


「うん」


『今度、テレビで長浜の魅力を紹介するコーナーがあって、そこで長浜ロック三味線を出したいって言われたんだ。だから、まず早乙女さんに話を通しとこうと思って』


「私に……?」


 なぜ、私に話を通すのだろうか?


 考案したのは吉川くんだし、メインの演奏も吉川くん。私は伴奏を頑張っただけだ。


『早乙女さんは自覚がないし、そもそも取材とかも全く受けないから知らないと思うけど』


 そりゃそうだ。


 私に三味線のことを聞かれてもなにも答えられないし、これといった芯になる話もない。


 あるのは、たまたま景品がはつね糸が当たったという始まりだけ。


『全然、表に出てこないから、早乙女さんは実は有名な三味線演奏家の隠し子じゃないのか、って話で盛り上がってるんだ』


「えぇっ!? なに、そのおかしな話!?」


 とんでもない尾ひれに驚くと、吉川くんは心底おかしそうに笑った。


『まぁ、そんなことはあり得ないから、ただの笑い話なんだけど』


「こっちは笑えないよ」


 こちらは驚きに心臓をバクバクさせているのに、電話の向こうは楽しそうに笑うだけだった。


『早乙女さんには迷惑な話かもしれないけど、長浜ロック三味線って僕と早乙女さんのワンセットで見られているみたいで、先方もできたら早乙女さんに出演してもらえないかって』


「えぇっ!? いや、困るよ。テレビでしょ? まだ初心者だもん。絶対に失敗するって!」


 文化祭は勢いで成功したようなもんだし、そもそも細かく見れば粗はあるわ失敗はあるわだった。


 それがテレビともなれば、その姿が多くの人に晒される。


『じゃぁ、失敗しないように練習をいっぱいしよう』


「いっぱい、って……。頑張ってるけど、そう簡単には前に進まないよ」


『大丈夫。早乙女さんさえ良ければ、僕も全力で協力するから』


 どこかで聞いたことがあるやりとりだった。


 もうここまで来たら、あとの流れは一緒だろう。


 行き着く先はどうなるか分からないけど、きっと文化祭みたいな楽しい終わりになってくれると信じて。


 すぅ、と小さく深呼吸。


「わかった。今回もよろしくね!」


 たぶん、私の顔はにやけてた。


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シャミセン☆ロック いぬぶくろ @inubukuro

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