第四話 テストの赤 春の青

「おじゃまします」


 テストも終わり、榎田に連れられて、三駅離れた榎田の家に到着した。


 榎田の家は昔ながらというか、すごい壮大な印象をもった。木造で、庭には盆栽の数々。昔話に出てきそうな、そんな感じだ。凄すぎて言葉が「ほー」とか「へー」にしかならない。


「いらっしゃい。よく来たね」


 麦茶を出して僕を出迎えてくれたのは、あのおじいさんだった。


「え? なんでここにいるんですか?」


 テストの問題の難しさよりも驚いた。


「ん? いて当然じゃよ。だってこの家の持ち主だからのぉ」


「え!? そうなんですか?」


 榎田はこのことを知っていたのだろうか?知っていて僕に隠していたのかもしれない。


「なあ、榎田?」


 僕が聞くと、榎田はいつもの明るい笑顔で答える。


「どうした?」


「知ってたのか?」


 何が、は言わなくても分かるだろう。


「ああ。知ってたよ。この前、お前にあの質問された時にな」


「ふーん、そっか」


「黙ってて悪いな」


「いや、いいさ」


 その後は、おじいさんがカレーをご馳走してくれて、僕はお礼にお皿洗いをした。

 榎田は外に出て行き、僕は隣で食器を拭いているおじいさんと話していた。


「答えは出たかい?」


「まあ、自分なりには」


「聞かせてくれんかの?」


「春って聞くと、やっぱり明るい色が思いつくじゃないですか? 赤とかオレンジとか、そういう感じの」


「ほう、それで? 君もそうなのかい?」


 僕はお皿を洗う手に集中しながら言う。


「いえ、僕はそうは思いません。そりゃ、前までは僕もそう思ってましたけど。おじいさんに言われて、考え直してみたら、何か違う考えが出てきて」


 おじいさんも、手を止めずに聞いてくる。


「違う?」


 水を止めて僕はおじいさんに顔だけ向ける。


「『青春』って言葉があるように、青い方が僕は好きだなって。そう思ったんです。でも……結局は自分らしい春が見つかれば、それでいいんじゃないですかね?」


 すると、おじいさんはニコッと笑った。それは榎田の笑顔にも少し似ていた。


「彼女はいなくても、勉強が出来なくても、もっと自分らしく学校生活楽しみたいじゃないですか!」


 そう言って僕は外にいる榎田の所へ駆けていった。


 その様子を窓からおじいさんが笑いながら眺めていた。



 数日後、テストが帰ってきた僕の顔は、結果とは反対で、青ざめていたかもしれない。後ろを向くと、榎田は、いつものように笑っていた。

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春の青 浅雪 ささめ @knife

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