真夜中、一人森の中で彷徨い、笛を吹いて過ごしてきたおには、心惹かれる笛の音を奏でるひとと出会います。言葉を交わさぬ交流でも、ひとと共に過ごす合間に様々な感情を知っていくおにが愛おしいです。とても温かい気持ちになれるラストも素敵でした。
「おに」の視点から描かれる、「ふえ」を介しての静かな物語。美しい音色が聞こえてきそうな、然し何処か儚さの漂う作風に、感慨深い何かを感じてしまう。
「わたし」には「しんでる」がない。森で暮らす「おに」が、他者が吹く「ふえ」の音と出会ったとき……。言葉もなく、繰り返される出会い。交わされるふえの音。切なく、美しく、素晴らしい物語です。