31 第七皇女は語りかける

「って、それってどういうことなのよ!?」


 私の内心の混乱を代弁したメルランシアお姉様が公爵に詰め寄る。


「許されない大罪? 愛し子は精霊にとっても大事な存在のはずでしょ? ましてや緑の民がそんな存在を軽々しく追放したっていうの!?」


 興奮した様子の二の姉様が問いかけ、その是非を問うが、イーゼルベルト公爵は静かに首を振るだけだった。


「仔細までは分かりません。私がその情報を入手した際、その〝禁忌〟がなんだったのか語られることはありませんでしたから」


 静かにそう言った公爵に、辺りに沈黙が降りた。


 愛し子を追放するほどの大罪。一体その禁忌とは何なのか。

 折角解決案を導き出したのに、緑の民の集落に入れなければ何もできない。


 排他的な緑の民は自分達が住む集落に特殊な結界を張っていて、余所者はまずその集落すら見つけられないのだ。

 この中ではナスターシャしか集落の場所を知らない。


 このまま手をこまねいている訳には行かないのに。早くしなければグウェンダルクが完全に『魔』に取り込まれ、堕ちた時、この地一帯が災厄に見舞われる可能性すらあるのだ。


「――取り敢えず、ナスターシャに話を聞きましょう」


 メルランシアお姉様が不意に呟いたこの一言に、私は同意を込めて頷いた。

 どう言った経緯でそうなったのか。本人に聞くのが手っ取り早い。

 ナスターシャにとっては話しづらいことかもしれないけれど、今は一刻を争う事態なのだ。耐えてもらうしかない。


「そうですね、本人に聞きましょう」


 公爵も同意し、私たちは転移魔術を使って屋敷に戻った。



 *



「――という訳なのよ。グウェンダルクを救うためにも緑の民の集落に行く必要があるの。だからあなたが追放されてしまった理由を教えてくれないかしら?」


 メルランシアお姉様が柔らかな声音で問いかけるとナスターシャは緊張して体を強ばらせる。

 公爵とライオットには退出してもらい、私とメルランシアお姉様の二人でナスターシャに話を聞くことにした。


 最初は大人しく話を聞いていたナスターシャだったけれど、追放の理由を聞いたあたりからその表情に硬さが混じり出している。

 ナスターシャが集落を出ることになった理由。デリケートな問題ゆえ、やはり言い難いことのようだ。


 よし、それならば。

 私はメルランシアお姉様と代わるようにしてナスターシャの隣に座ると、静かに語りかける。


「……無理に、とは言いません。けれど緑の民の集落にどうしても行かなければならないのです。そうしなければグウェンダルクが死んでしまう。グウェンダルクの死後この地から恩恵は失われ、かつてのウォルフロム領のような豊かさは永遠に失われてしまいます。そうなればウォルフロム卿も悲しむことでしょう。どうか、領地の未来のためにも話してくださいませんか?」


 今は亡きウォルフロム卿――あなたの養父ちちのためにも。


 そう言葉を締めくくると、ナスターシャ様はハッとしたように顔を上げる。


 そのまま無言で彼女は手をギュッと握りしめて再び俯くと、黒くなってしまった瞳を潤ませて、涙を堪えるような仕草を見せ、ついに顔を上げた。

 その表情は先程の硬さはなく――何かを決意したような意思が宿っていた。


「分かりました、お話します。私が集落を追放されたのは〝禁忌〟を犯したから……グウェンダルク様の真体を傷つけてしまったからです。これは今から二年前の話になります……」


 そう前置きすると、彼女はひとつの昔話を語り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

第七皇女は早くも人生を諦めたようです。 蓮実 アラタ @Hazmi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ