担々麺地獄巡り

黄金ばっど

地獄系担々麺 バトルバージョン

 待ちに待った休日。

 休日にすることと言えば決まっている。

 担々麺巡りだ。


 僕は担々麺が好きだ。

 メタな話しをするとこの2500文字の中で担々麺と50回書き記す程には担々麺が好きだ。

 それも地獄系と言われる担々麺が好きなのだ。

 地獄系―――

 そう、一度食せば悶絶する程の辛味が襲いかかってき地獄を食せば極楽に会える。

 そんな風に言われる程の辛い担々麺が好きなのだ。

 故に地獄系担々麺を食す事をコアな人は『参拝』と言う。

 そして僕の地獄系担々麺巡りの記念すべき百参拝。

 それが今日五月五日こどもの日FOR仏滅なのだ。

 鬼に会うために仏滅を選べるとは僥倖!

 僕は今日地獄へと鬼退治に行くのだ!

 そんな記念すべき百参拝目に僕が選んだ鬼(担々麺)はコイツだ!!


 相対する鬼は鬼旨辛系担々麺『赤鬼』。

 旨辛系担々麺の元祖とも言われている名店。

 関西の参拝者達にその名を轟かせている老舗だ。

 ちなみに食べログで口コミを見る。

 ☆は安定の一つ星。

 口コミは『後悔しか無い』『担々麺と言う名の兵器』『人の喰う物では無い』との評価がずらりと並ぶ。

 老舗のブランドは伊達では無い。

 少し辛い物が好き程度では参拝する事すら敵わない。

 それが関西の雄と言われる『赤鬼』の実力。

 ―――――恐るべし。



 今僕はその鬼の居城と言うべく難波赤鬼本店の前に来ている。

 路地裏にひっそりと佇むその入口は知らない者なら見逃してしまう程度の小さな看板が掲げられている程度だ。

 モルタル剥き出しの外壁は薄汚れ年代を感じさせる。

 意を決し僕は引き戸を開け放つ。

 がらがらがら―――。


「あい、らっしゃい!」


 威勢の良い店主の声が聞こえる。

 店の中は狭くカウンター8席のみ。

 昼時と言うのに客は壮年の男性のみだ。

 彼はまだ注文していないのかメニュー表を眺めている。

 僕は席に着くと同時に注文を飛ばす。


「担々麺一つ、超辛で」

「―――お客さん超辛担々麺は…………」

「僕は『参拝者』―――ですから」

「了解しやした。担々麺超辛入りました~」


 赤鬼のメニューはシンプルだ。

 担々麺一辛二辛三辛と辛さが増えていき五辛以上からが参拝者の土俵になってくる。

 鬼旨辛、赤鬼旨辛、青鬼旨辛、黒鬼旨辛と上がっていき、最後に全てを超越した地獄系担々麺が待っている。

 それこそが超辛担々麺。

 旨の一文字が抜け落ちてしまっているが、それも致し方ない。

 もはや旨味を感じる事が出来ない。

 そう謳われるほどの担々麺なのだ。


「超辛担々麺一つ――――」


 ぼそっと先客だった壮年の男性が呟いた。


「お客さん―――」

「―――頼む」


 店主が断りを入れようとした。

 だが男の目を見た店主は黙って頷いた。


「担々麺超辛入りやしたぁ~っ」


 そう言いながら店主は店の奥へと入って行く。

 しばらくして再び現れた時、店主は防護マスクとゴーグルをそして手にはゴム手袋を装着していた。

 紅油を作成すべく中華鍋を振るう店主。

 中華鍋の中には赤黒い油がにゅるんにゅるんと鍋の上で踊っている。

 その中身はブートジョロキア・キャロライナリーパー、ニンニク・ゴマ・ショウガ・ハバネロ等。

 世界を代表する激辛唐辛子のオンパレードだ。

 そこに後から投入されるのが大量の臼引きの白山椒だ。

 カウンターで座っているだけなのに既に汗が滴り落ちだした。

 これは想像以上かも知れない。

 百参拝に相応しい担々麺だ。

 ごくりと僕の喉が自然と鳴る。

 これ程までに超辛担々麺が待ち遠しいとは―――


「ヘイお待ち」


 ドスンと自信満々に置かれた丼にはたっぷりの乳白色の汁。

 その上に大きな渦を描くように赤い線が描かれている。

 トッピングは山盛りの白髪葱と煮豚が3枚。

 乳白色のスープと対照的に黒ゴマが視覚的なアクセントにもなっていてなんとも旨そうだ――――

 だがここで僕は一つの疑問が浮かぶ。

 何故。

 何故スープが白いのだ。

 乳白色のスープの代表、豚骨系なら話は分かるでもお前は地獄系担々麺だろう!!!

 違うだろう!!!

 もっとこう毒々しさを演出しつつ香りだけでも目が痛いとかそうあるべきだろう!!

 普通担々麺は赤黒い物だろうが!!!

 さっきの紅油は何処に行ったのだと聞きたい。

 そんな僕の想いが迸りそうになったがぐっと堪える。


「くっ………」


 何とも言えない期待外れ感が僕の脳裏をよぎる。

 しかし箸を付けない訳にもいかない。

 そう思い少し残念な面持ちで赤い箸を手に取る。

 白いスープを箸が突き破りその奥に潜む麺を持ち上げと出てきたのは、黄色みがかった極太平打ち麺。

 そしてその麺に纏うスープが赤いのだ。

 どろりとした赤黒いスープそれがこの極太平打ち麺にこれでもかと纏わり付いている。


「こ………これはっ、まさか!!」


 白い表面の膜を破ると真っ赤なスープが溢れ出すではないか!!

 まさか担々麺で破膜を体験する日が来ようとは。

 そんな馬鹿な考えが浮かんだ僕はつい店主を見てしまった。

 店主は歯糞のついた歯をむき出しににこりと笑った。

 もし彼にアテレコ出来たなら「俺童貞なんだ」って言わせたい。

 それほど迄に爽やかな笑顔。

 グッドだ。


 僕は掬い上げた麺を再び真っ赤なスープに投入し、今度こそはと勢いつけて食す。

 ずるずるずるずる、ずずっずずず~~~~~~~~――――。


「げほげっほげほ!!」


 咽返るほどの辛さ!

 刺激的な白山椒の香り!

 白い膜の部分は白ごまペースとか!!

 まさかまさかの構成に僕は汗が止まらない。

 そして最後に来る劇的な辛さはブレンドされた唐辛子という名の兵器。

 流石食った者を後悔させると謳われた担々麺。

 だが僕もこれでも一角の参拝者だ。

 この程度に参る訳には行かない!


「ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あぁぁぁあああああ―――――」


 地獄の底から聞こえて来た様な、そんな悲痛な叫びが突然店中に響き渡る。

 声の主はもう一人の客だ。

 彼は汗だくに鳴りながら意味不明な寄生をあげつつひたすらに担々麺を食している。

 そんな彼の頭髪がずるりと滑り落ちる。

 その劇的な変化に僕と店主は声を失う。

 そして出てきたのは毛一本すら生えていない頭皮に焼け爛れた様なシミ。

 まさか彼は伝説の参拝者ゴルバチョフ!

 負けてはいられない!

 これは僕とゴルバチョフの勝負なんだ!!!

 二人の熱い戦いは膜を破ると同時に幕を開けた。

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担々麺地獄巡り 黄金ばっど @ougonbad

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