人魚に出会った
綿麻きぬ
架空上の生き物
僕は海辺を歩いていた、学校を抜け出し、トボトボ歩いていた。何も思わず、ただ、ひたすらに歩くという行為をしていた。これは嘘になるな、何も思っていなかった訳ではない。
心の奥底に殺意を潜ませながら、歩いていたのが正解だ。
誰でもいい、いいや、自分より弱いものだったらなんでもいい。
そんな僕は海辺で人が倒れてるのを見つけた。正しくは打ち上げられていた。
僕は見過ごすことも出来ただろう。いつもなら見過ごすだろう。
この日はきっと何かが狂っていたのだ。好奇心が大きかったのか、それとも人を救いたかったのか、はたまた、その人を殺したかったのか。
僕はゆっくりその人に近づく。ゆっくりゆっくりと。何かに怯えるように。
それを見たときは驚いた。それは人ではなかった。足はなく、尾ひれがついていた。
それは端的に言うと人魚だ。太く醜い人魚だった。
僕はその醜さに嫌悪感を表した。こんなのが存在してはいけないとさへ思った。
僕は近くの棒切れを掴み、そいつをつつく。そいつはピクリと反応した。
そいつは起き出してこう言った。
「あなたは人間ですか?」
しゃべったことに驚いて、僕は後退りした。
まさか授業の雑談での話が本当だとは思わいだろう。そういや先生はこんなことを言っていた。
「この世界には人魚がいるんだよ。私たちは彼らに会うことは稀である。彼らは完璧な美貌を持っていて、尾びれがある。」
ここでクラスの茶化し屋が先生に質問した。
「どうやって会うんですかー?」
「基本は会えない。たが、たまにはぐれた人魚が海岸に打ち上げられてくる。彼らを助けると多大な謝礼が貰えるらしい。まぁ、運だな。」
この時、僕は本当に人魚がいるとは思わなかった。想像の産物だと思っていた。
美しい者だと思っていたのに。そいつは汚ならしい声でしゃべった。
「あぁ、人間なんですね。私たち人魚とは美貌の価値観が違い、私たちを見るとその醜さに驚くと言われている人間なんですね」
どうやら、先生の言っていた美貌は人魚達の価値観だったらしい。
僕はやっとの思いで声を絞り出して答えた。助けて謝礼を貰うために。
「仲間とはぐれたの? 何か助ける?」
「いいえ、何もしなくて大丈夫です。私たち人魚は人を殺すことを目的として生まれたのですから」
そいつの一言は衝撃だった。目の前のことが信じられないのに、もっと信じられないことが言われたのだから。
「例えば、あなたのような人間を。心の奥底に殺意を芽生えている人間が行動に移す前に殺すのです。」
まさか自分が殺される対象になっているなんて、驚きが隠せない。でも、それも当たり前だとも思える。
「でも、私はあなたを殺すことはできません。」
その一言に僕はイラついた。
「だってあなたはもう人魚なのですから。たまにいるんですよ。人間としての適正がない人が人魚に出会うことで人魚になることが。そういう人魚は目的達成率が高いのです。」
僕は急いで足を見る。足はなかった。尾ひれがあった。そして、顔を上げるとそいつは美しくなってた。
僕はもう戻れない所に来たみたいだ。そういや、先生はこんなことも言っていた。
「人魚は人間が進化したものである。世界を救うために、地球を救うために、人類を滅ぼすために。謝礼は人間をやめたくなるほどのものらしい」
人魚に出会った 綿麻きぬ @wataasa_kinu
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