読者参加型の物語
- ★★ Very Good!!
知人に薦められ、プロローグからエピローグまでを一気に読み進めました。
無機的で冷ややかに君臨する「死刑」というものと、有機的で動きのある「死を見た・死を聞いた・死を感じた人間」とが織りなす、キャラクターのバランスの良い物語でした。
「死」といういずれ訪れるであろう自然の摂理に対し、「死刑」という秩序でもって訪れる生命の終わり。それを民に求める「死刑権」とは如何なものかと初見で思いもしましたが、さておき最後まで読んでみれば、登場人物たちにとって意味のあることだったと思います。
そしてそれは、この作品を読んだ自分自身にも。
僕は「しない」に投票しました。登場人物たちの仔細な気持ちに触れ、その過程を見て、自分自身で選択をしました。「誰かに死刑を執行するかどうかの選択をする」という過程を、物語を通じて深く考えさせられました。
その選択は、ある意味これ以上多くを考えたくないという思考停止のものだったかもしれませんが、何をすれば、どこまで思考を巡らせれば「自分はこのことについて深く考えたのか」ということに至らなかったこともあると考えます。
ただ確実なのは、あくまで自分の思考だけで導き出された答えであるということと、どちらを選ぼうとも「死刑権」の選択の正悪は、関係なくこの物語の畢竟へと導いていたということです。
この作品をこれから読む人へ。
文章に若干の不安定さはありますが、それを補う題材と面白さがあります。
試しにプロローグだけでも読んでみてください。何かを少し感じ取ることがあったなら、少しずつ先を読んでいってみてください。
文字数は少なめですが、早く読むものではなく、少しずつつまんでいく作品です。各登場人物ごとに読んでいくこともおすすめですね。
素直に受け取った印象と、その後の印象でも楽しむことができる作品です。