知人に薦められ、プロローグからエピローグまでを一気に読み進めました。
無機的で冷ややかに君臨する「死刑」というものと、有機的で動きのある「死を見た・死を聞いた・死を感じた人間」とが織りなす、キャラクターのバランスの良い物語でした。
「死」といういずれ訪れるであろう自然の摂理に対し、「死刑」という秩序でもって訪れる生命の終わり。それを民に求める「死刑権」とは如何なものかと初見で思いもしましたが、さておき最後まで読んでみれば、登場人物たちにとって意味のあることだったと思います。
そしてそれは、この作品を読んだ自分自身にも。
僕は「しない」に投票しました。登場人物たちの仔細な気持ちに触れ、その過程を見て、自分自身で選択をしました。「誰かに死刑を執行するかどうかの選択をする」という過程を、物語を通じて深く考えさせられました。
その選択は、ある意味これ以上多くを考えたくないという思考停止のものだったかもしれませんが、何をすれば、どこまで思考を巡らせれば「自分はこのことについて深く考えたのか」ということに至らなかったこともあると考えます。
ただ確実なのは、あくまで自分の思考だけで導き出された答えであるということと、どちらを選ぼうとも「死刑権」の選択の正悪は、関係なくこの物語の畢竟へと導いていたということです。
この作品をこれから読む人へ。
文章に若干の不安定さはありますが、それを補う題材と面白さがあります。
試しにプロローグだけでも読んでみてください。何かを少し感じ取ることがあったなら、少しずつ先を読んでいってみてください。
文字数は少なめですが、早く読むものではなく、少しずつつまんでいく作品です。各登場人物ごとに読んでいくこともおすすめですね。
素直に受け取った印象と、その後の印象でも楽しむことができる作品です。
本当に軽い気持ちだったんです。
短いけれどインパクトのある題名につられ、「読もうかな」などという
軽々しい気持ちで読み始めてしまったのです。
最初の章を読み終わったらもう止まりませんでした。
作者さんの描写力や文章力の高さも相まって、一気に読んでしまいました。
最初の適当な気持ちはどこへやら、今その読み始めの時とは真反対の
感情を抱いています。
これは絶対にレビューを書かねば。書きたい。
そう思って今これを書いていますが、なにぶん興奮が冷めやらぬ状態で
書いていますので、読みにくいかと思います。あらかじめご了承下さい。
ただ、開き直るつもりはありませんが、逆に言ってしまうと、この作品は
それだけの力を持っているということでもあります。
死刑囚の死刑を執行するか否かを、国民が投票で決める、「死刑権」という制度があったら――というお話です。
章は、一、二章で登場人物の視点が切り替わります。
それを通じて、彼らの思惑を感じ取っていきます。
投票をしなければいけない国民全体の、数多くの民衆の中の、
一人一人のお話。
彼らはこの制度に何を思うのか。事件に対して、どう思うのか。
それぞれ異なります。けれど、彼らには彼らなりの思惑が存在するのです。
死刑。法。命。正義。心。連鎖。
この小説は、実に重い題材を扱っています。
何が正しいのだろうか。人の命とはなんだろうか。
法とはなんなんだろうか。
「正しい事」「悪い事」の形がはっきりと明確についていれば
いいのになと、これほどまでに感じた事はありません。
登場人物達に触発されて、私も色々と考えずにはいられませんでした。
ラストは、色々言うのははばかられるので言いませんが、
私は「納得」せざるを得ませんでした。何も言えなかったです。
この作品を見つけたそこのあなた。
重そうなテーマだからと尻込みして迷っているあなた。
読まないという選択肢をしてはいけません。
とりあえず、一章だけでも。せめて章の半分だけでも読んでみて下さい。
作者さんの書き方がとても上手くて大変読みやすいので、
一度読んだらすぐに引き込まれると思いますし、
読み終わったら自分が面倒臭くても、死刑という制度について考えずにはいられなくなること間違いなしです。
断言したくなるくらい、私はこの小説を読んで良かったと、心の底から思いました。
もし死刑権という制度が現実にあったら、どうしますか?
また、これから先、この制度が実現したとしたら、どうしますか?