7.恋文(改稿)
文盲
の
書き留めるときは不能者の
声帯が
筆
を信じて
震えて
閉じて
また
開いて
、と
せわしく擦って出る吐息の
響きが
気流を染めて
洞の鼓を
打ち鳴らす
指でこねて筆先に
紙を濡らして
文字に起こす
私の筆跡 に包まれた
言葉運びは
この不能者との
接合 とあらわれるとき
身内に 振れる鈴がある
投函されたはなびらの
薄桃色の反射する
文盲の顔色に泥沼が
陣地をひろげるこちらを
知るよしもなく
文盲は便箋の
読めもしない人の名の形態
その本体を
窓越しの空の直下に夢む
その返信さえ
目くばせもしない私を措いては
知ることなどないこの人に
読んで聞かせる
私はこのひと時のみ
文盲の想い人の言葉と結ばれて
その人の耳朶を打つ
口をひらくときに割れていく
口液の音までこの言葉と結ばれて
この文盲の記憶になればいい
どうせ逢瀬の果たされない
不具者同士の恋愛ごっこなら
そのあいだに私がいて
この文盲の想い人の観念に組み込まれる
ということも充分にあるだろう
たとえ言葉は遠い想い人のものとはいえ
それを耳朶に打って聞かせる声や休符の調子は
私のものだ
それが遠い人の偶像に混入していれば
私も文盲のなかに居場所をもてる
官能詩篇 湿原工房 @shizuki
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