新しい葬式

霜月りつ

新しい葬式

登場人物

遠山(32歳)葬儀会館の館長

近田(26歳)葬儀会館の職員


山田吾一(20歳)甦った男

山田茂(40歳)吾一の息子

ニュースキャスター(28歳)女性


ex科学者A(30代)

ex科学者B(40代)

ex新聞記者(30代)

ex政府関係者(40代)

ex甦った男(20歳)

ex若者(17歳)

ex葬儀の客たち




遠山「近松セレモニー会館業務日誌、5月2日、山田吾一様ご葬儀 開始13時、終了 14時予定」


喪主・山田茂「本日は大変お忙しいところをわざわざお参り頂き、ご焼香を賜りまして誠にありがとうございました。父、生前中は何かとお世話に……(声が小さくなってゆく)」

遠山(喪主の挨拶にかぶさるように)「やっぱりお葬式は年寄りに限るなあ、近田くん」

近田「そうですね、館長」

遠山「みんななごやかだしさ。悲しんでないっていうか」

近田「そうですね」

遠山「若い人や子供の葬式だとほんっと、辛いもんな。俺も年取って大往生で逝きたいよ」

近田「じゃあ館長の葬式の時は僕が責任もって執り行いますよ」

遠山「頼んだぞ、近田くん。お、そろそろ喪主の挨拶が終わるな」


喪主(はっきりとした声で)「……今日は本当にありがとうございました。故人も喜んでいることでしょう……」


   ガタンと柩のふたのあく音。


客の女性「きゃーっ!」

遠山「うわー、ほとけさまがー!」

近田「や、山田さまがっ、い、生き返った!」


   客たちの悲鳴があがっている。

   

喪主「お、おやじ……?」

若い男・山田吾一「おお……しげる。めしはまだか……?」

喪主「な、なんで生き返って……しかも若返ってるんだよー!」


   ニュース番組のOP音楽


ニュースキャスター「こんばんわ、ニュース シックスの時間です。最初の話題は最近頻発している甦りのニュースです。驚くべきことに全世界規模で次々と亡くなった方が甦っております。近松セレモニーの遠山館長と、甦られた山田吾一さんに話をお伺いしました」

遠山「はい、うちは葬儀専門のセレモニー会館なんですが、仏様が棺桶から起き上がったときには驚きましたねー」

山田吾一「いやあ、目が覚めたら俺の葬式やってたからびっくりしたねえ」

ニュースキャスター「厚労省の調べでは、甦りは病死の高齢者のみ。若者や、事故死や自殺などは甦えらず、ということだそうです。これに対して調査した研究機関では」

科学者1「甦られたお年寄りは痴呆が治り、衰えていた筋肉や骨も復活しているんです」

科学者2「体組織は20代の若者と同様です」


遠山「近松セレモニー会館業務日誌、5月12日、本日葬儀予定無し」


ニュースキャスター「甦りが恒例となり、政府も新しい対策が必要なようです」 


   ざわざわと大勢の雰囲気とカメラのシャッター音。

   

新聞記者「政府は年金対策をどうされるつもりですか」


   カメラのシャッター音

   

新聞記者「よみがえった人々に支給はあり得ますか」

政府関係者「政府としては事態を正確に把握するまではなんとも返答はできません」

   

   カメラのシャッター音


遠山「近松セレモニー会館業務日誌、5月20日、本日葬儀予定無し」


ニュースキャスター「死んだ親が自分より若い姿でよみがえることに対応しきれない子供たちのカウンセリングも必要です」


   町の雑踏の音


若者A「え? 俺? そう、こないだ死んだの。でも生き返っちゃったー。これからもう一度青春謳歌よ、サイコーだね!」

若者B「マジ、じいちゃん、ちょーかっけーよ」

若者A「おう、もう一軒いくかー」


   ノックの音三回


遠山「(力なく)ああ、君か」

近田「(明るく)館長、お話が」

遠山「(なげやりに)君も辞めるのか? まあ仕方ないよね、葬式が激減しちゃったんだから……。この会館も、もうだめだ」

近田「諦めないで下さいよ、館長」

遠山「しょうがないだろ、最近じゃ葬式の数はめっきり減っているんだから。ああ、年寄りが死なないと、葬式業はだめだ」

近田「(励ますように)それを逆手に取るんですよ、館長」

遠山「逆手? どういうことだ?」

近田「新しい葬式の形を考えたんです!」


   静かな音楽が流れ、人々の笑い声やグラスの音。

ざわざわとした穏やかな雰囲気。

   

遠山「はい、みなさまご歓談のところ失礼いたします。そろそろお時間となりましたので、柩の前にお集まりください」


   ドロロロロというドラムの音。 

   

遠山「どれではカウントダウンでございます。 5、4、3、2、1!」

全員「おめでとうー!」

遠山「はい、見事山本陽子さま甦りいただきましたー!」 


   拍手やクラッカー、歓声。


   賑やかな雑談の声。


遠山「(嬉しそう)いやあ、君の狙い、当たったねえ」

近田「はい、死後かっきり12時間で甦ることがわかってますからね、それを人生の再出発、再誕生としてお祝いする……お祝いごとの好きな日本人にはたまりません」

遠山「年寄りが若者の分まで元気に働いてくれて……最近、景気もいいそうじゃないか」

近田「出生率の低下が気になりますが」

遠山「近田君、私はねえ、こう思うんだ。人間は今、一段階、上にあがったんじゃないかって。死んで甦ってまた新しく始める。そのあとどうなるかはまだわかんないけどね、これもまた新しい世界だよ」

近田「はあ……」

遠山「なんにせよ、葬式はなくならない。私たちは安泰だ」


   再び歓声があがる。


遠山(嬉しそうに)「ああ、やっぱり葬式は年寄りに限るなあ」


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