ビスクドール
クレイドール107号
第1話
ビスクドール
粗品さんが壊れた冷蔵庫を買い換えようと、安く済むリサイクルショップに赴いた。
店内を物色していると、目立たないであろう奥の棚に古そうなビスクドールを見つけた。
ひと抱えもあるフランスの大人の女性を象った陶器で出来た人形で、その顔を見ているうちに、なんとなくではあるが、欲しい欲求に駆られた粗品さんは、目的の冷蔵庫なんかどうでもよくなり、店員に新聞紙で包んでもらった。
家に持ち帰り、本棚の上に飾って眺めばかりいた。
粗品さんは無精髭に覆われて、普段のそのむさ苦しさを自認している自分が、まさかビスクドールを欲しがるとは思えなかった。
その後ビスクドールが夜中になると勝手に動くのだという。
ちょこんと座らせているその手と足をバタバタと振って、まるでイヤイヤしているように思えた。
電池でも入っているのだろうか?
確かめたが電池を入れるような場所もない。機械のような部品も確認出来なかった。
その話をたまたま友人に話すと、女の子が可愛がる人形なのだから、前の持ち主でも取り憑いているのでは?そう言われて半信半疑だったらものの、強く否定もできなかった。
その夜もいつもの時間、手と足をバタつかせてしまうビスクドール。
粗品さんはタバコを吸いながら、そんなにイヤがるなよ、そう人形に話しかけた。
そのビスクドールからぶつぶつと呟く声が聞こえてきた。
まさか!?粗品さんは人形に近づいてみた。たしかにその口から声が漏れている。
「…S'il vous plaît le retourner.…S'il vous plaît le retourner.…(返してください)」
フランス語か!?たしかに喋ってる!言わんとしていることは何となく分かる気がする。ホントに前の持ち主が取り憑いているのか?
人形は朝までバタつかせて同じ言葉を呟き続けた。
再び友人に話すと、リサイクルショップに問い合わせてみては?
そう促されて、店長に聞いてみた。
以前、おばあさんが売りに来たという。死んだ孫が可愛がっていたが、要らなくなったという。古い人形なので買い手は付かないと断ろうとすると、引き取ってもらうだけでいいと、おばあさんは引き取り料金まで置いて行った。去っていくおばあさんの顔から、これは傷物だと思った店長は、せっかくお金までもらった事だし、客からは目立たない場所に置いていたのだという。
曰く付きだったのか。それにしても欲しくて仕方ないと思ってのは偶然じゃない無かったんだ。粗品さんは、これも縁かもしれないと、そのまま飾り続けた。毎晩暴れて返して。ばかりを繰り返すそのまま人形にも慣れてしまった粗品さん、自分じゃどうしようもない、返せと言われても返せないんだよ。そう揶揄いながらタバコを加えて火をつけた。するとビスクドールが、
イヤーーーーーッ!
絶叫したかと思うと、加えたタバコを勢いよく弾かれてしまった。
「それが、イヤーーーーー!と叫んだ声だけ大人の女の声だったんだ」
ビスクドール クレイドール107号 @cureidoru107
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