52話

 姉さんの車に乗って、お父さんとお母さんのお墓がある生まれ故郷に行く。

 生まれ育った場所は自然豊かな、はっきり言ってしまうと田舎かなんだけど。でも僕はそれが好きだった。


「おじいちゃんたち心配してるかな」

「心配してるかもしれないわね」

「だよね。あと、この姿のことなんて言おう」

「言っても言わなくても、その程度のことで態度が変わるような人たちじゃないわよ。良くも悪くも昔の人たちなんだから」

「うーん、それ考えたらいつもと変わらない気がしてきた」

「でしょ」


 窓の外に見える景色がコンクリート作りの建物から、木や森と言った自然豊かなものに変わり。木造の建物が増えてきた。ここが僕と姉さんが育った場所、沢森。


 年に数回しか来ない実家。大きな平屋で古民家なんだけど。ここには誰も住んでない。おじいちゃんもおばあちゃんもいないから。

「さてついたわね、紗奈は先に中は言ってていいわよ」

「うん」

 もう古く名ちゃってる引き戸をガラガラと開けて中に入る。

「ただいま」

 と言っても「おかえりなさい」って声は聞こえてこなくて。でも、家の中は誇りが積もってなくて綺麗だった。

 だから後ろから聞こえてきた声に僕は驚いたんだ。

「やっばっし紗奈ちゃんと綾音ちゃんでねがー。よくけってきだのー」

「あらーおかえりなさい。紗奈ちゃん綾音ちゃん。今年はこねなぁって心配しでだのよ」

 後ろには、顔に一杯皴を付けたおじいちゃんとおばあちゃんが居た。

「厳おじいちゃん、イネおばあちゃん!」

「いづもより甘えんぼだな、紗奈ちゃんは」

「紗奈ちゃんいっずもよりめんこぐ可愛くなったんでないの」

 この二人は本当のおじいちゃんにおばあちゃんじゃない。ただ隣に住んでるだけのおじいちゃんにおばあちゃんなんだけど。親のいない僕たちをすごくかわいがってくれてて。


「ただいま!」

『おがえり紗奈ちゃん』


 本当のおじいちゃんとおばあちゃんみたいなんだ。


「厳さんにイネさん、ただいま」

「綾音ちゃんもおがえり。あ、そうめん余ってらのよ。いさきでけってげ家に来て食べて

「んだ、わどでばあましで俺達だと余るからまるすげけってけろ食べてくれ

「じゃあご馳走になります。紗奈、荷物下ろしたら食べに行きましょ」

「うん」


 お菓子とかいろいろ仏壇にあげてから、厳おじいちゃんとイネおばあちゃんの家に行った。


 田舎っていうのは情報が広まるのが早くて、そうめん食べてる間にいろんな人が来た。その集落全体で可愛がってもらってたのもあって、いろんなおじいちゃんとおばあちゃんが来ては、野菜を置いて行って。帰りの荷物が沢山になっちゃった。みんなみんな優しくて、僕はみんなみんな大好きなんだ。たまに方言がきついのもあるけど、何とか聞き取れるし。何より感情がすごく伝わってきて、皆に愛されてるってすごく実感する。

 あと全員に女の子になったことを話したんだけど「もっどめんこく可愛くなったのが」って感じで。前よりかわいがられる結果になりました。


「それじゃあ、そろそろお墓参り行ってきますね」

「掃除しでらから。水っこ掛けるだけでええ」

「いつもありがとうございます」

「なんもなんも、こうしてけって帰ってきてくれるだけでええ」

「また来るね厳おじいちゃんイネおばあちゃん」

「お正月はお餅用つぐっでまっでるがらね」

「うん!」

「じゃあ、帰るときにまた寄りますね」


 仏壇にあげたお菓子と、途中で買った花を持って。僕と姉さんはお墓に向かった。

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流星に何を願い、変わった現実で、少女になって何を思う 幽美 有明 @yuubiariake

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