51話目

 目が覚めたら、姉さんに抱きしめられてた。

 どうしてこうなってるんだっけ。

 なんで姉さんに抱きしめられてるかわからないし。なんで姉さんの部屋で寝てるのかわからない。なんでだっけ。

 昨日のことを思い出す。ええと確か、学校でいろいろ言われて。それで帰ってきてから姉さんに抱きしめられてそれで泣いて。そのまま寝ちゃったんだ。

 朝ごはん作らなきゃ、もう窓から朝日がさしてるし。

 どうにかして姉さんの腕の中から脱出しようとするけど、なかなかうまくいかない。っていうか、姉さんと体格差があって無理そう。だって両手で抱きしめられてて、姉さんの足が僕の足に絡みついてるし。

 でも起きないと、朝ごはん作れない。


「姉さん起きてよ」

「んーさなー」


 余計に拘束が強くなって、胸に埋まって。


「んーんー!」

「さなー」


 息できるけど、動けない。姉さんの力こんなに強いの。

 どうしよう、何もできない。

 そのままもぞもぞしてたら、姉さんの意識が徐々に覚醒してきたみたいで、抜け出せた。


「おはよ、紗奈」

「おはよう。もう、姉さんのせいで朝ごはん作るの遅れちゃった。学校も行かないといけないのに」

「ああ、学校は今日は休んで」

「え?」

「不審者っていうか、記者の件のあるけど。お盆にお墓参りできなかったでしょう。ちょうどいいからすることにしたの」


 いつの間にか着替えが姉さんの部屋にあって。姉さんと一緒に着替えることになったけど。制服じゃなかったのってそういう理由なんだ。でも、確かにお墓参り行けてなかった。僕が女の子になっちゃったから。


「夜玻たちに連絡しなきゃ」

「そうね、今日も来てくれるはずだったものね」


 急いで、夜玻たちに伝えたら。投稿の前に家に来てくれるって。


「朝ごはん、何がいい?」

「紗奈が好きなのでいいわ」

「姉さん」

「何、紗奈」

「ズボンくらいはいてよ」


 先に一回に降りて、朝ごはんの準備をしてたら。姉さんがズボンもはかないで、上に半袖だけ着て降りてきた。


「いいじゃない、紗奈しかいないし。この格好の方が楽なの」

「もう」


 確かに暑いからわからなくもないけど、妹としてなんか情けなくなってくる。

 とりあえず簡単に、味噌汁と鮭を焼いてテーブルに出す。


「はい、できたよ」

「ありがと。それじゃあいただきます」

「いただきます」

「それで、夜は恋伽ちゃんたちはなんて?」

「学校行く前に来るんだって」

「あら、そう。ならそろそろ来るんじゃない」


 時計を見てたら、確かにいつも学校に行く時間になりそうだった。

 ピンポーン


「あっ、姉さんはご飯食べてて」


 玄関の扉を開けると、夜玻と恋伽が居た。


「紗奈大丈夫か?」

「うん、なんともない」

「お墓参り行くんでしょ。学校のことは任せなさい、ノートとかちゃんと取っておくから」

「うん」


 こうして、何も変わらず。二人は接してくれる。気にしてたのは僕だけで、二人は全然気にしてなくて。


「あり……がと」

「ちょっと、夜玻なに泣かせてるのよ」

「いや、俺何にもしてないだろが」


 泣いてた。涙が流れてた。


「僕が勝手に泣いてただけだから」

「そんなことないでしょ、昨日のこと関係してるんでしょ、紗奈」

「綾音さ」

「夜玻は見ちゃダメっ!」


 とっさに、夜玻の目を両手でふさぐ。だって姉さん上しか服着てないんだもん。


「紗奈大丈夫よ、上半身しか出してないから」


 後ろを見たら、確かにリビングから上半身しか出たなかった。


「なんなんだよ、ってか昨日のことなんだ」

「それは」

「紗奈は昨日学校で気持ち悪いって言われて。あなた達にもそう思われてるんじゃないかって、不安になって泣いてたの」

「そうなのか?」


 夜玻が、こちらを見て優しく聞いて来た。


「うん……」

「そうか、気にすんなそんなこと。いいか、俺も恋伽も、紗奈と一緒に居たいからいるんだ。可愛いとか、ちんまいとは思うけど。気持ち悪いなんて絶対の思わねえから、安心しろ」

「そうよ。少なからず、紗奈をよこしまな目で見てる夜玻が気持ち悪いなんて思うはずないんだから」

「ばっ、よこしまな目でみてな」

「可愛いって言ったでしょ」

「それは普通の事だろ。可愛いいんだから」

「あんたが言うと、普通に聞こえないのよ」


 僕だけが話から置いてけぼりにされて、僕が可愛いとか、色々。聞いてて恥ずかしくなるような会話が続いてる。


「大丈夫だったでしょ」


 姉さんが頭をなでてくれてる。


「うん、って。恋伽、夜玻の目塞いで」


 こっちを向いた恋伽が事情を理解して、夜玻の目を塞いだ。


「姉さん」

「大丈夫よ、紗奈で見えないから」

「大丈夫でも、大丈夫じゃないの。はやくズボン履いてきて」

「わかったわよ」


 何が起きてるか理解したらしい夜玻が顔を真っ赤にしてた。

 姉さんが後ろからいなくなって。なんだか少しほっとした。


「それじゃあ、私たちは学校行くから。紗奈は楽しんで、は変よね。いい一日をかしら」

「うん、恋伽達も学校頑張って」

「取り合えず手どけてくんね」

「ほら行くわよ」

「じゃあな紗奈」

「うん」


僕はすごく恵まれてる。恋伽と夜玻野二人が親友だから。

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