50話目

 次の日もまた、夜玻たちと登校した。帰りに記者を見かけたことは姉さんに言って。学校の方にも伝わってるみたい。

 早く、二人と遊べるようになればいいのに。


 今日も、学校にいる間は普通に過ごせると思ってた。でも三時間目、授業のために教室を移動してる時だった。授業の合間の時間。廊下には僕たちだけじゃなくて。他の学年の他のクラスの人もいた。


「移動すんのだりー」

「そんなこと言っても仕方ないでしょ、次の授業理科室でやるんだから」


 夜玻は教室を移動するのがめんどくさかったみたいで、ぼやいていた。

 前の方から上級生が来て、普通にすれ違うはずだった。


「おいあいつ」

「元男の女とか気持ち悪」

「女なのに男なんだろ、ないわー」


 すれ違う時に、そんなことを言われた。僕は夜玻と恋伽の後ろを歩いてて。二人には聞こえてなかったみたいだった。

 今まで、クラスの皆とか。夜玻とか恋伽とか姉さんとかには言われたことない言葉。みんな、変わった僕のことを受け入れてくれて。可愛いねとか、聞いた僕が嬉しくなる言葉をかけてくれた。

 でも、普通じゃなかったんだ。だって、そうだよね。もともと、男の子だった僕が女の子になって。普通気持ち悪いって言われるんだよ。だって普通じゃないんだもん。普通じゃないから、受け入れてくれないことが、当たり前なのに。

 目の前を歩く、夜玻と恋伽を見る。

 二人は気持ち悪いとか言わないけど。

 本当は心の中で思ってて。買うしてるだけだったらどうしよう。言わないだけ、思ってたら。僕はどうすればいいの。


 もやもやしたまま、その日を過ごすことになって。夜玻にも恋伽にも心配されたけど。二人に気持ち悪いって思ったか聞けなくて。もし思ってたって言われたら、僕はもう二人のそばに居れなくなっちゃうから。それが嫌で、聞くこともできないまま家に帰った。

 授業内容も、帰り道のこともあんまり覚えてない。気が付いたら家についてて、服を着替えてリビングの椅子に座ってた。

 何も考えられなかった、考えると全部悪い方に考えちゃって、怖くなって。膝を抱えて、うずくまってた。


「紗奈、どうしたの」

「ねぇ……さん」


 普通に呼んだつもりだった。でも、声はかすれて今にも泣きそうな、そんな感じになちゃって。

 こんな僕を見たら姉さんがどうするかなんてわかってたのに。


 僕を抱きかかえて、ソファーに座った姉さんに聞かれた。頭をなでてくれて、抱きしめてくれて。僕を安心させようとしてくれた。僕が泣いたり、ふさぎ込んだりすると。いつも姉さんはこうしてくれた。

 何も言ってないのに、何も言わないで。ずっとこうしてくれる。僕が話せるようになるまでずっと。


「学校で、気持ち悪いって言われた」

「それで怖がってるの」

「ちがうの。夜玻に恋伽に姉さんそう思われてたらって思ったら。怖くなって、嫌われたくないって思ってそれで……」

「私が紗奈のことを嫌いになんてならないし、気持ち悪いなんて思うこともないわ。だって紗奈は私にとって一人だけの弟だから。紗奈が女の子になってもそれは同じよ。大事な大事な、弟で妹よ」

「ねえさ……」


 姉さんに抱きしめられながら、泣いた。沢山泣いた。沢山泣いて安心して、そのまま姉さんに抱きしめられながら寝ちゃった。

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