ツクヨミ
詠海ノ ヨミ。
プロローグ
僕には幼い頃の記憶が無い。
母親が誰なのか。
父親が誰なのか。
自分の本当の名前がなんと呼ぶのかも知らない。
知っている事とすれば、よく監視員達が口にする 「コードネーム Re4」 と言う名前だけだ。
僕が何者なのか自分ですらも分からない。
僕の記憶は鮮明では無い。
まるで砂嵐のテレビの様に異様に組み上がった構造をしている。
思い出してみても、何も無い真っ白な空間。
そして、倒れていく自分と同じ年齢の子供達。
手に持っているのはハンドガン?
聞こえてくるのは銃声。
そして、真っ赤な何か。
着ている服は白衣?
よく分からない。
思い出そうとすれば、猛烈な痛みが僕の記憶に鍵をする。
僕は東日本から西日本へとやって来た。
理由は特にはない。
あの監獄から抜け出したかったからだろう。
脱獄を決行した日以来、過去の記憶は何故か黒板消しで文字を掻き消されたかのようにグチャグチャだ。
監獄?
そもそも、いつも夢に出てくるあの監獄は?
僕の過去だけは何故か空白なのだ。
しかし、夢で見る事が多い。
記憶には無くても、夢で過去の映像が再生されるが、昔の映写機みたいに途切れ途切れでよく分からない。
たまに声が聞こえるんだ。
「───れーか…」 と言う声が。
れーかは目を開けた。
いつもと変わらない明かりの灯った部屋。
悪夢に出てきた監獄とは桁違いに明るい光が僕の白い髪を優しく照らす。
れーか とは僕の偽名だ。
偽名と言っても、夢で聞くことが多いこの名前を使っているだけだ。
白髪でショタのような髪型、顔つき、薄い緑色の目、髪に鈴の付いた赤い小さめのリボンを付けている事がチャームポイントである。
あ、言い遅れたが女子ではない。
このリボンはお守り代わりでもあるからだ。
しかし、誰から貰ったのかも分からない。
だけど何故か気に入ってる
この鈴の音色は僕の心を落ち着かせてくれるのだ。
れーかは起き上がると、いつも通りに携帯を開き、軍のニュースを確認する。
「新着情報は無しか…」
この期に及んで軍は旧九州方面での軍事力を集中させており、緊迫した状態が続いていたからだ。
その為毎朝に新着情報が無いかチェックする必要がある。
しかし、今の所緊急の知らせや速報は無く国家非常事態宣言の声明があったものの、平凡な日常が続いている。
今日もいつも通りの日常が始まる。
ここは旧九州方面から少し離れている為、人々は安堵の息を見せている。
外から聞こえてくる楽しそうに登校する小中学生達の声が、小鳥の囀りの様にも聞こえてくる。
旧西日本であった月夜と旧東日本であったOst連邦は今では啀み合う存在だ。
お互い戦争状態にあるのだ。
戦争と言っても敵は人間ではない"何か"だ。
しかし、それを政府は明かそうとしない。
週に2〜3回通っている軍事学校でもその事には言及されない。
今日はその軍事学校へ通う日でもある。
月夜ノ皇国は軍事体制を敷き、国家防衛と敵に対する武力行使を行っている。
徴兵制度を設けている為高校生以上は軍の管轄下に置かれる。
今日は高校でプール開き、それが終わったら午後から軍事学校での実機訓練だ。
スケジュールを確認し、窓のカーテンを広げると、そこはいつもと変わらない住宅街、そして東から昇る曙光が部屋中を駆け巡り暖かく、そしてやさしく包み込む。
「そろそろ…かな」
支度の準備をして、ドアの取手に力を入れ思いっきり扉を開けて自分を外へと解放する。
悪夢の後に映える現実の風景は別世界への旅立ちを意味するかの様に何処か不思議な気持ちにもなる。
新しい一日が始まる。
人は今日という新しい日々に過去と言う歴史を綴り、物語を進めていく。
しかし、僕の過去のページだけは何故か破られた日記のページの様に途切れており、真っ白のままだった。
ツクヨミ 詠海ノ ヨミ。 @himerag1_rek
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ツクヨミの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます