第2話 幸せだった?

「では、早速行く?」

「その前に訊きたいんだけど・・・」

「僕の命は、いつ尽きるの?」

「明日の夜明け前だよ」

「了解」

「冷静だね」

「まあね」

今更、じたばたしても、仕方ない。


「では行く?三河勇気くん」

「何で、僕の名前を?」

「死神だからね。あっ、私の事は、真愛弥(まあや)でいいよ」

「真愛弥さん」

「さんは、余計。私も勇気って呼から」

「でも・・・」

「その方が恋人らしいでしょ?行こう、勇気」

真愛弥が僕の手首を引っ張る。


「では、勇気、どこへ連れて行ってくれるの?」

「でもそれは・・・」

「女の子はね。好きな人が連れて行ってくれるところなら、どこでも嬉しいんだよ」

いきなりだったので、考えてなかった。


でも、もう夜も遅い。

場所は限られている。


「じゃあ、行きたいところあるんだけどいいかな」

「うん、エスコートしてね。勇気」


こうして、真愛弥と出かける事になる。


久しぶりに吸う外の空気。

都会の空気は、薄汚れているはずなのに、とても美味しく感じる。

病室の、陰気な空気しか吸っていなかったせいか・・・


真愛弥が腕をからませてくる。

何だか、恥ずかしい・・・


もう夜も遅い。

デートスポットは閉まっている。


いろいろ考えたが、やはり2人きりになりたい。

その想いが勝る。


僕は真愛弥と他愛のない話をする。

それだけで嬉しかった。


「ここだよ。真愛弥」

「ここは?」

僕は、近所の公園の高台に連れて行った。


病室の窓から見える高台。

いつか行ってみたいと思っていた。


「真愛弥、見てごらん」

下には一面の、夜景色が広がっていた。

「勇気?」

真愛弥は、不思議そうに見ている。


「人の数だけ、ドラマがあるんだね」

「うん」

「真愛弥も死神なら見てきたと思うけど、僕は自分に生まれてよかったと思ってる」

「本当に?」

「ああ」

「でも、同じ年頃の子は、みんな青春を謳歌して、結婚して・・・」

「それは違うんじゃないかな」

「えっ」

「確かに僕は、不治の病で入院していた。でも、おかげで人の温かさを感じる事が出来た。

それで、よかったと思ってる」

「勇気?」

「話さなくていから、時間までこうしていて・・・」

「わかった」


それから、夜明け前まで2人で一緒にいた。

とても短い時間。

でも、僕の時間を取り戻せたと思う。


翌日の昼、僕は遺体となって高台で発見された。

悔いはない。


「勇気、ここでお別れね」

「真愛弥?」

「私は死神、地獄の使い。君は天国行きが確定したわ。

だから、もう一緒にいられない・・・」

「真愛弥?」


「最後にひとつ、訊いていいい?勇気・・・」

「何?」


【君は君に生まれてきて、幸せだった?】

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ろうそくの火が消えるその前に 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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