xxxxxxx.そして何度目かの

 もうどれだけの生命体とのコンタクトを試みてきたのか、数えるのもやめてしまった。

 助けられた星の数は多くない。この宇宙の中にいくつのレラが存在するのかもわからない。自分がコンタクトを取る前に消えてしまった星も、いくつあるのか知れなかった。

 徒労でしかないと薄々気づいてはいても、彼女にはその活動を終わらせるつもりがなかった。

 

 自分が助けられた星の、そこに生きるすべての生命体の価値について想像する。

 自分のレラが奪い去った、母星のすべての生命体の最期に対する埋め合わせとするには、けして足りることはなかったが。

 レラによって奪われるものを、レラによって奪わせないことが、自分に唯一出来ることであると信じて、彼女は今でも宇宙空間を漂っている。

 

 ひとつだけ楽しみにしていることがある。

 

 彼女が『そのこと』に気付いたのは偶然だった。

 母星と共に彗星になり、奇跡的にどの星の重力圏にも捕われることなく宇宙を彷徨い続けている自分の、宙域絶対座標シーガルパイントを確かめる。

 いつもの習慣だったのだが、なぜかそのときに限っては、出てきた数値に覚えがあった。

 しばらく考えて、思い出した。

 

 レラの記憶領域から古い『通信』のログを浚った。

 誰かに見られるわけもないけれど、奥まった、自分以外には見つけられないような場所に保存した情報。

 想像通りのデータが残っていた。

 遥かな昔、いくつもの『声』を交わした、あの子の属した銀河系ランディングリッドが、驚くほどに近付いている。

 

 『地球』という名のその星がどんな形をしているのか、視覚を持たない彼女にはわからない。

 私に『目』があればよかったのにな、と思う。

 

 現在位置から演算した予測では、『地球』の座標に最接近するのはもう間もなくだった。

 その一瞬を最後に、彼女はその座標を離れ、次の銀河系ランディングリッドへと旅をしていく。

 近づいてくるその時のために、かける言葉を考えていた。

 色々なことを考えたけれど、結局、聞きたいことはただひとつだった。

 

《ねえ、いーちゃん》

 もう答えのもらえない言葉を、彼女は問いかける。

 

《あなたは最後まで、大切な人と一緒にいられましたか?》

 

 幸福な一生を全うしたに違いないルーシアともだちのいた、今も存在するかさえ定かではないその星の、あの子のいた場所シーガルパイントに向けて――

 『声』を放り投げる瞬間を、わくわくしながら彼女は待った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

この胸の中の銀河 広咲瞑 @t_hirosaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ