第5話 戦闘中に寝る

 見つけた川の近くにバイクを止め、火を炊いて珍しくお茶を淹れ、携帯食で優雅な昼食を――と思っていたところで女の子に声をかけられた。

 女の子は怪我をしており、見るからに憔悴しきった様子で俺に何かを訴える。まずいな。俺ここの言葉わからないんだよ。


 この世界というかこの国というか、まあ世界的に言語が統一されてるとも思えないけど、そもそも日本語(日本語も方言は怪しいけど)と中学の教科書レベルのたどたどしい英語しか理解できない俺にとっては大差無い。より状況を限定するならば、転生して以降、誰の言葉も理解できたことがないということだけだ。

 なにしろ言葉がわからないので、コミュニケーションもままならなかった。わかったのは全員の名前くらいのもので、あとは身振り手振りを駆使してなんとかやっていた。ちなみに一緒に旅をしていたやつら以外に対してどうしているかと言えば、喉を指さして口をパクパクしたり頭を振ったりして、要するに喋れない人のふりをして、後は同じく身振り手振りだ。どうやら俺がユーゴの体を乗っ取ってしまったらしいということも、リッカが地面に枝で書いてくれたイラストを独自に解釈したものであって、正しいのかどうかは知らない。原理も理屈もわからない。あいつらとユーゴの旅の目的も知らない。

 あの三人の死体を捨てたことを、ユーゴは怒っただろうか。


 俺が感傷らしきものに気を取られている間も、女の子は話し続けている。これは仕方ない。ちょっと喋ってみれば言葉が通じないことくらいは通じるだろう。

「ズンドコベロンチョ」

 言語が違うのだから意味のあることを喋る必要もない。身振り手振りで「何を言っているかがわからない」ということを示しながら、適当に喋る。

「ズンドコベロンチョってなんだっけね? 世にも奇妙な物語か、はたまた別の都市伝説か、なんかで聞いた単語だと思うんだけど、でもあれだね何で聞いたのか思い出せないくらいがズンドコベロンチョっぽくていいよね。なんだっけ牛の首? とかアレ系のさあ」

 無論、何も伝わっていない。女の子は深刻そうな顔で二言三言、たぶん独り言だろうけど何か言ったあと、後方を指さしたり俺のバイクを指さしたり何かを担ぐ仕草をしたりと頑張って何かを伝えようとしてくれている。ははあ、これさては面倒事だな?


 先導されるままついていってみると、しばらく歩いたところに二人ぶんの死体が落ちていた。女の子はそれを担ごうとし、でも二人を一気に担ぐなんて無理だしてきな状態っぽくて、一人を十歩分運んだら戻ってもうひとりを十歩分運んでみたいなことをやる。なるほどだから片っぽ運んでくれとかそういう話?

 断る理由も特に無かったのでバイクを持ってきて荷台に一人積む。邪魔。腰のあたりで真っ二つにして荷台の両側に積みたいんだけどそれ言ったら多分怒られるしどうせ言葉がわからないから言わないけど。

 女の子の方は徒歩なので、それに合わせるとバイクを走らせるわけにもいかない。これ俺の荷物一旦ここに全部おいて、女の子もアレしちゃって、三人荷台に括り付けた方が早いんじゃねえかな。だめ?

 とか思いながらしばらく歩いてたら、魔物が出た。しかもあれはあれだ、睡眠魔法ラリホー使ってくるやつ。やばい。ありとあらゆる意味でやばい。一旦バイクも荷物もほっぽって退却した方が――


……目を開ける。屍の山がそこにある。

 幸いなるかな、旅人三人は取り敢えずそこそこに原型を保っている。結局女の子が真っ二つになってるのは、たぶん、バーサク状態のユーゴに何かしらの妨害を行ったんだろう。止めたくなる気持ちはわからんでもない。


「……運びやすくなったからいいかなあ……」

 取り敢えず三人をバイクの荷台に積み、最寄りの町の死者蘇生機関(教会というよりは病院に近い)に運び込んだ。報酬はまあ、持ち金の半分ってことで。セオリーセオリー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界睡眠ファンタジー 豆崎豆太 @qwerty_misp

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る