第4話 廃城で寝る

 夢を見た。襲いかかってきた魔物をちぎって(物理)は投げ(物理)ちぎって(物理)は投げ(物理)する夢だ。俺の体は自動的に走り、飛び回り、魔物の群れをたやすく蹂躙する。瞬く間に築き上げられる屍山血河を踏み荒らし、俺は哄笑する。

 目を開く。魔物だったものがうず高く積まれている。わあ。


 夢だけどー! 夢じゃなかったー!!


 じゃないわ。何をトト■のマネなどしているのか。肉体に合わせて精神状態まで幼くなったか?

「あーあーあーあー……」

 毎度同じような感想しか出ない。

 綺麗だった――とは言えないが、塵や埃や小動物の死骸や糞や砂やそういうものが積もっているだけで元々は瀟洒だったのだろうなと思わせるような城内の風景は、目を閉じて開くと一変していた。屍の山に血の河、というかどれが屍でどれが血か判然としない何かのぐちゃぐちゃ。毎度思うのだがここまで細切れにする必要があるのだろうか? 剣と魔法のファンタジーてき世界としては何らかの合理性があるのだろうか。片付けが手間だからやめてほしいんだけど。


 ユーゴは真夜中、ほとんど自由に行動ができるようだ。ような気がする。何しろ荷物の中から勝手に剣を取り出して好き勝手暴れているのだから、たぶんそれなりに自由に動ける。にもかかわらず、俺はたいてい眠ったときとほぼ同じ状態で目を覚ます。知らない場所に移動したりしていたことは無い。ありがたいと言えばありがたいのだが、何がしたいのかはよくわからない。

「俺を守ってくれてる――なんてことはないよなあ?」

 もちろん、訊いてみたところで返事があるわけではない。ユーゴは俺が眠っている間だけ動けるのだから、俺が動いている間はユーゴは眠っているんだろう。たぶん。何もかも曖昧だ。


 それにしても、ユーゴだったときの記憶が残ったのは今回が初めてだ。ほとんど夢みたいな現実感の薄い記憶だったとしても、これだけはっきりと覚えているのはなかなか気持ちが悪い。眠りが浅かったのだろうか?


 昨日はすっかり道に迷った一日だった。道に迷ったというか、まあ別段あてのある旅でもないのだが、食料の補給ができないのは困るので一応普段は街を目指して走っている。たぶん、森の中で一度道を見失ったときに方角を間違えたのだろうと思う。野宿やだなあと思いながら走っているときにたまたま廃城を見かけたので、まあ寝心地は悪くなかろうとバイクごと乗り付けて眠ったのだった。

 携帯食の最後のひとかけを口に放り込み、水を飲む。今日中に街へたどり着けなかったら次の食事は魔物の丸焼きだ。面倒な上にまずいので好きではないが、得体の知れない植物を食うよりかは安全だ。皮膚と爪、牙、内蔵あたりを避けて捌けば毒にあたることもない。携帯食の方はまあ、うまいとは言わないまでも、まずくはない。運ぶにも軽いし腹持ちもいいのだから優秀だ。水を飲むと腹の中で想像以上に膨れるので、最初のうちは苦労した。加減を間違うとすぐに苦しくて動けなくなるのだ。

 寝袋を丸めてバイクへ括り付け、軽くストレッチしたところで、何やら光るものを見つけた。光ると言っても反射のレベルではなく、何やら不自然なレベルの光り方だ。飛行石とかああいう感じ。三秒眺めて無視すると決めた。剣と魔法の世界なんだから不自然に光るものくらいあってもおかしくないんだろう。原理とか考えてもしゃーなし、触らぬ神に祟りなし。


「――さて」

 バイクに跨り、城の外に出る。んん、今日も良きバイク日和だ。乾季サイコー。

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