第3話 人んちで寝る

 曰く。前の世界で俺が死んで、この世界に転生したとき、あれだ、あの、母親の腹の中で双子が融合しちゃうやつ、あれみたいなのが起きたらしいのだ。つまり、ひとつの器にふたつの魂。元々この世界で生きていた「ユーゴ」という人間の人格を俺がほとんど乗っ取ってしまった。恐ろしいことだ。乗っ取った先が四足獣とかだったらたぶん歩くのもおぼつかなかっただろう。

 ユーゴは基本的に俺の体の中で眠っていて(いやこの体元々ユーゴのなんだけど)(不可抗力とは言えそこは申し訳ない)、危険を察知するとぱっと目を覚ます。そんでバーサクをやらかす。たぶんそういうのが今回もあって、まあつまり起きるとまた血の海だった。


 その前日は午後からひどい雨になった。ぬかるむ道をどうにか進み、パンツまで濡れるどころかちんこもふやけそうなほどざぶざぶに濡れ鼠になって困り果てていたところで、山の中に小さな家を見つけた。せめて軒先で雨宿りでもさせてもらえないかと声を掛けると、善良そうな老夫婦は俺を家の中に招き入れ、シャワーとタオルを貸してくれ、豆らしきもののスープらしきものを振る舞ってくれ、ベッドまで貸してくれた。全体的に話は長かったがまあ老人はだいたいそんなもんだし、トータルしてとてもいい人たちだと感激しながら眠りについて、これである。

「あーあーあーあー……ひっどいなこれ……」

 例のごとく目を閉じて開くと部屋中血まみれなのだからビビる。床には、元おじいさんと元おばあさんが散らばっている。ちょっとどれがどっちのパーツかはもうよくわかんないけど。

 現場は寝室。寝室っていうか、俺が借りてたわけだから客間なのかな。床に刃物やら猟銃やらが落ちているところを見ると、たぶんこの夫婦は俺の荷物とかなんかを奪おうとこの部屋に侵入して、ユーゴに殺されたのだ。たぶん。知らないけど。でもユーゴは基本、俺たちの身に危険が及ばない限りはバーサクするやつでもないし、たぶんそうなんだろう。

「しかしユーゴももうちょっと、なんていうかな、手心ってもんがあるでしょうよ……」

 ひとりでぶつぶつと文句を言ったところで、もちろんユーゴに伝わるわけではないし、ユーゴは今後も片付ける側のことなんか考えてはくれないだろう。俺は手早く部屋を片付け、隅々まで濡らした布で拭き、自分もシャワーを浴びて、元おじいさんと元おばあさんは毛布に巻いてバイクに括り付けた。幸いなるかな今日の行程も山の中だし、どっかで捨てよう。


 いやしかし今日も絶好のバイク日和だ。

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