第7話

「それで仕事の話とは何でしょうか?」


「天象会の動向調査よ。『勇者』の話が流れていないか調べていないか、それを知りたいの」


「勇者……? 何ですかそれ」


レイにとって聞き覚えのない言葉だ。

天象会に六年も所属していたが、そんな話は一度も耳にした事がない。


「人間の特性を強力にした代物と言ったら分かりやすいかしら。魔法を使うと他人の生命を消費する人間の特性。それの規模を大きくした物よ」


「…………! それなら、すぐにでも止めないと! じゃないと……」


沢山の人間が死ぬ。

レイは言葉からそう察する。


「興奮し過ぎよ。……正しくは人間界にはまだ現れてないの。かと言って、こちらしても無視し続けていい物じゃない。だから、この場にあなたを呼んだのよ」


「……人間界で勇者についての情報を集める」


「方法はあなたに一任する。けれど、私達魔物の動向は探られないようには気をつけて」


「待ってくれ。人間界にはそんなに簡単に行ける物なのか? もうちょっと何か手順とかあったりして……」


異世界から現代に戻る。

その行為自体、普通のゲームや漫画であればすぐ出来る事自体非常に珍しい。

ましてや当事者のレイにとっては、さぞ当たり前のように言われても急に実感が湧かないものだ。


「転移魔術を使えば簡単な話よ。今回の調査は、それが使える者を一人付けるわ。ラブル、あなたが付き添いなさい」


「は、はい!」


今だに寝転がっていた二人のメイドの内一人が立ち上がり返事する。


「今、言ったこと頼めるかしら」


「はい、全く問題ありません。他に何かありますか?」


「それなら、ついでにお目付け役も頼もうかしら新参者のレイ君のね」


「……本人の前で言うのかよ」


「隠してもあまり意味がないでしょ。信頼していない訳では無いけれど、こう言った方が本人にとってもけじめがつけやすいからね」


「分かりました、ミーティア様。このラブルに必ず命を遂行してみます!」


敬礼するラブル。

声の出し具合から見てもかなり気合が入っているようだ。


「よし、これで仕事の話は終わりよ。ご苦労様。……後これは魔王としての助言を一つ。汝有りべき物を求めるのであれば、原始に戻れば良いだろう」


「……何だそれ」


「すぐ役に立つと思うわ。では、じゃあね」


ミーティアが小さく手を振ると、彼女の言葉と共に体の周りに光の粒が発生する。

粒が全身を覆い被さると一斉に弾けそこにいたはずの魔王は消えていた。


「消えた……これも一種の魔術か」


「移動魔法ですね。ミーティア様は多忙ゆえ、魔法で移動される事が多いですよ」


「ふーん、便利なものだな」


目の前で起きた魔法に興味を持つレイの元に、ラブルは円卓の外側を回ってすぐ隣まで歩いてくる。


「では私達も行きましょうか、レイ様」


「あ、ああ。……転移魔術を使うんだろ。この場ですぐ使えるモンなのか?」


「この場では無理ですね。あと、勘違いしないで欲しいのですが、私が直接転移魔術を使える訳でなくて、きっかけを与えられるだけです」


「……きっかけ。つまり転移の魔術が組み込まれた魔道具を使う、って解釈でいいのかな?」


魔道具は、魔法の術式が埋め込まれた道具である。

魔力を流すだけで使えるお手軽な物だし、利用者を限定する事もできる。


「ふふ、正解です。では、こちらに連いて来てください」


会議室の取っ手を掴み扉を開け、廊下に出る。


何回かの上り下りや、右左折を繰り返しをした後、ようやく目的地の部屋にたどり着いた。

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