第7話 死神の朝

目を覚ますと、朝日が昇り、電気がついていない部屋が鮮明に見えた。


昨日奇妙な人達と会い、何かされない保証はないが仲間になり、帰り道に襲撃してきた奴を撃退し、ヒントを得た。


あの紋章には見覚えがある。


昔の忘れたくても忘れられない、忘れてはならないあの記憶にあったあの紋章……


ようやく一本、糸が繋がった。


運が良かった。


やはり奴ら『グロル』と共に行動すると何かもたらしてくれるのかもしれない。


ともあれ、これで道が狭まり、やるべきことが見えてきた。


時刻は朝の6時だ。


いつもより少しだけ早いが、二度寝して遅刻は出来ない。


ゆっくりとだるい体を動かしてベッドから起きると………


「はー、ほはよーはぶや」


「おはよう、和也君」


「おはようございます、和也さん」


いた。


誰だこいつらとはならない。


昨日会った奇妙な奴らだ。


訂正しよう、奇妙な不審者達だ。


「…………何やってんだお前ら」


「なにっへ、かぶやんちまへきてめひくってうだけだよ」


「何って、和也君の家まで来てご飯食べてるだけよ」


食パンを頬張りながら喋る神楽坂と、それを翻訳する若宮、台所で飯作ってる群上がいた。


「いやいや、何で不法侵入して人の家の食材使って飯作って食べてんだよ」


「あ、使った食材の分、卵や食パンなどは買って来ましたから大丈夫です」


「よし、お前はまともだと思ったが、ちょっと焦点がズレてるみたいだな。俺が聞きたいのはどうやって入ってきたか、何で入ってきたかだ。あと飯くれ」


ベッドから降りると、小さなテーブルの空いたスペースへ座る。


「向かいに来たっていうか親睦を深めるためっていうか、まあそれは気にすんな。入り方なら普通に飛んで窓開けて来た」


「そういや鍵掛け忘れてたようなそんなことないような。てか普通に飛んでってお前ら皆飛べるのか」


「僕は残念ながら二人のようには飛べませんけどね、アハハッ」


元気はつらつといった感じで普通に会話をする群上。


違和感しかない。


斜めに座る神楽坂を手招きして顔を近づかせ、ヒソヒソと話す。


「あいつなんかあったのか?」


「良太郎は料理してる時だけは機嫌がよくなるんだ。おかげで話しやすい。おまけに美味いから食ってみろ」


良太郎が皿を持ってこちらへ来たのでヒソヒソ話をやめ、料理を見る。


不可思議なことにそれがなんとも艶があるというか、1つ1つ輝いているかのように見えた。


箸を手に取りスクランブルエッグを食べると、


「な、何だこれ!?やべえ、こんなフワフワしてるの初めて食べた!本当にこれがスクランブルエッグか!?」


続けてトーストをひと齧りすると、


「こ、これは!?カリカリしてて柔らかくて味もいつものとは違う!いや、違うどころじゃねえ!天と地、月とスッポンだ!んめえ!どんどん体が飯を求めてきやがる!」


「食パンならこの家にあったやつを使わせてもらいましたよ」


「まひべ!?ひょくあいれへるであひがかわってるぼ?」


「まじで!?食材レベルで味が変わってるぞ?だそうよ、良かったわね」


「あ、ありがとうございます…」


片付けが終わったのか、喋り方が昨日に戻ってる。


あいつは料理しながら戦えば強いんじゃないか?などと考えるが、それよりも今は飯だ飯。


あまりの美味さにがっつくように食べること数分。


「ごちそうさまでした。はー、美味かった…溶けちまいそうだ」


まるで初めて食べる食材で作ったような不思議な朝食だった。


どうやっているのか後で聞いてみなくては。


「だろ?やっぱ良太郎の飯が一番美味いんだよな。これなら料理人になれるだろうし結婚相手も沢山見つかるだろうな。いいなー」


「高校生のガキが何を言ってんだか、結婚なんて。こんなことしてる時点で牢屋にぶちこまれるかもしれないし死ぬかもしれない、そんな危険だらけで結婚なんて夢のまた夢だな」


肩をすくめなから同じ高校生のガキがネガティブ発言をするが、ネガティブは和也のみで八雲にはそれなりに自信があるようで、


「ま、そのためにさっさと目的を成し遂げることだな」


「一応言っておくが俺は目的を成し遂げたらさっさと普通の人になるからな。俺がやりたいことは何も世界征服とかじゃない。ただ知り、ひ…おっと、それは秘密だな」


神楽坂はため息をつくと憂鬱そうに、


「それなんだよなー、やっぱ仲間は手放したくないなあ。和也、俺らと一緒に地獄に墜ちてくんない?」


「断る」


「そこをなんとか」


「あなたならいくらでも成長出来るわよ、昨日の戦闘を見てて分かったわ。だから私達があなたを育てる。というわけで一緒に地獄に」


「嫌だってんだろ」


「冗談よ、八雲君がそう言ってたから乗っただけよ」


フフッと笑いながら訂正を入れる。


「ええ!?冗談だったの?」


「そう言うお前はまじだったのか、恐ろしいな。そういや話変わるが昨日の平和がどうとかいうの何だったんだ?」


「ああ、あれ?まあ簡単に言うと気を付けろよってことだな。実際あの槍の奴が来たんだし結果オーライじゃん」


「いや、完全に忘れてたし気にも止めなかった。それより時々ボロ出してた方が気になってた」


「忘れてたとか言われると辛いな、それでボロ出してたのだっけ?あれは反省してる。俺も甘かったよ、ようやくジョーカーが引けるんだって思って」


「チェスなのかトランプなのかはっきりしねえな、まあその失言はこの際終わったんだからもうどうでもいいけどな」


「さて、そろそろ行きましょうか」


「ああ、そろそろ学校行く時間だもんな」


腰を上げて学校に行く準備をしようとすると、


「ああ、待った和也、これ持って」


「?」


理解が出来ない中、ごみ袋大の布の袋を受け取る。


「はいはい、トイレ行くぞ」


ぐいぐいと背中を押されてトイレへ向かわされる。


「お、おい、何でトイ」


神楽坂がガチャッっとドアを開けると、森林が広がっていた。


「もりぃぃ!?」


「いってらっしゃーい!期限は24時間だよー!」


ドンッ!と背中を強く押されると、森へ足を踏み込んでしまう。


「ちょ!まっ!」


バタンッ!と勢いよくドアが閉められたかと思うと、ドアノブを掴む一瞬前にドアが消え去った。


「ええええ!!??……学校は!?」

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死神のデスクールライフ 玉梨イノスケ @RISTORANTE

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