第6話 死神と槍の男再び
「見つけたぞ!」
和也は学校を出て家へ帰ろうと誰も通らないような街灯があるものの周りにはコンビニや飲食店などない暗い道を歩いていた。
すると、昨日和也を襲撃した槍の男が建物のどこからか飛び降り、和也の前に現れた。
「またお前か、取り敢えずお前は雇われの殺し屋ってことでいいのか?」
「おう、まあそんなとこだ。それよか全くもって酷えめに会ったぜ。ありゃ何だ?てめえの仲間か?」
肩をすくめて「分からない、さあな」というジェスチャーを呆れながらする。
呆れながら、というのは目の前の男ではない。
自分でもあまりよく分からないが何かがいけすかない若宮達のことだ。
「さあな、俺もよく知らん。それよりもだ、雇ったやつの名前、組織なら組織名を教えて立ち去れ!昨日分かったろ?俺は不死身なんだ、やるだけ無駄だ」
「ハッ、どういうからくりか調べて殺せばいいだけだ。ぐるぐる巻きにするかぶつ切りにでもしてからじっくり探るさ」
男が槍を服の裏から取り出したので、和也もズボンのポケットから丸い球を取り出す。
男がこちらへ向かって走りだしたので、4、5mまで近づいたところで球を地面へ向かって叩きつけるように投げる。
「な、これは、煙幕か!逃げんのかてめえ!」
煙幕が晴れる前に急いで後ろへ走り出す。
和也を追いかけ男も走る。
男が十字路に出るが、ガキが見つからない。
すると、どこからか現れたガキが、男に鎌を振り下ろす。
間一髪で槍で受け止め、蹴りとばそうと足を出したところでガキが後ろへ飛び退いた。
「逃げてたわけじゃねえ、一時的に下がっただけだ」
和也は建物と建物の間の暗い路地へ飛び込み、
時間にして約7~10秒、作り上げる為に時間が必要だったので、煙幕を使用した。
時間がかかるのは辛いところではあるが、今はこんな姑息な手段を使い、後で時間を縮めていこう。
「やっぱ夜は目立たなくていいな、これ」
煽るように鎌を両手で遊ぶように交互に右手で鎌を放り、左手で受け止め、左手で放り、右手で受け止めて、と遊んでいると少し槍の男の機嫌に傷を付けられたようで、
「なるほど、夜に襲ったのは間違いだったかもな、だがこっちも仕事だ、それりちょっとムカついたから今こそ殺す!」
猛スピードで滑るように走り、槍を突き出すが、ギリギリで右へ跳んで避ける。
が、槍はそのまま和也へ向かって横に振られ、横っ腹に当たる。
「ぐああっ!」
なんとか転ばないように足で地面をふみしめる。
が、すぐにまた攻撃が来る。
何度も鎌で防ぐが、その度に欠けるように鎌がボロボロと崩れてゆく。
「何だ?結構もろいんじゃねえのかそれ。ろうそくみてえにどんどん欠けていくぞ!」
男の攻撃の手は止まらない。
やがて、長い柄の部分がパキリと真っ二つに折れてしまった。
「これでしまいだ!」
男は後ろへ下がる俺を追い、止めを差そうと距離を縮めるために足を前に出す。
しかし、
「ガッ!」
小さな、物がぶつかった音がした。
それは、男がつまずいた音だった。
子供じゃあるまいし、金髪の男は何もないところで転ぶような男ではなかった。
男の足元には、確かに物があった。
それは見覚えがある、いや、たった今見たばかりの色をしていた。
そう、あのターゲットのガキの武器の色そっくりの、黒である。
「な…んで…?」
倒れるホウキのように頭が倒れ、低くなる。
そして、待っていたとばかりに右足の回し蹴りが顔に命中し、男は槍から手を離してしまい、何回かゴロゴロと転がり、倒れた。
ちなみに本来この街はしっかりと歩道はアスファルトで整備されており、こんなところでつまずくことはまずない。
そして昼間ならともかく、夜にこんな黒いアスファルトの地面で足元を見て黒く小さな物体を見つけることは難しいはずだ。
正に和也の能力に合った暗闇限定の技というわけだ。
「クソ、痛ってえな。でも一発入れられたぞ。お前が折った鎌の破片、それを集めて小石にしたんだ。つまりお前は、俺の罠作りを手伝い、それに見事に引っ掛かったってわけだ!」
「ガ…くそったれが」
男はダメージは負ったようだがすぐに立ち上がり、戦闘態勢を立て直そうと槍を探すが、和也の近くにあることを理解し悪態をついた。
「まあ鎌折れちまったしこれから作り直すのも難しいからこっからは男らしく拳でやろうぜ」
そう言うと、和也は右手に
すると、男も拳を握り、和也へ殴りかかる。
「喰らえ!ブラックナックル!」
お互いの距離が2mを切ったところで、
「ガン!」
鈍い音が、男の頭から聞こえた。
ドローンが上から降ってきたのだった。
「騙し……」
「へっ、素直に殴り合いなんてすると思ったか?これは戦う前から用意してたもんだ。つまりだ、俺の作戦は戦闘が始まる前に既に終わってたんだよ!」
そのまま再び体勢を崩したところを、今度は拳で思いっきりぶん殴る。
男が再び何回かゴロゴロと転がり、倒れる。
「ちなみに今のブラックなんとかは嘘だ。何の変哲もないただのパンチだ。まあちょっと拳を硬くしてあるがな」
男に近づくと、またもや球状の物が跳んで来たので、適当に長い板状の物を作って弾きとばす。
昨日チラッと見た、黒ずくめの格好をした奴が現れ、クナイのような武器を取り出し、逆手に持つ。
「こんな手に二度も引っ掛かるかよ、別に逃げたっていい。ただ、この男を放っておくのはお前にとってあんまりいいことじゃあなさそうだが、合ってるか?」
「ッ!」
女は分かりやすく図星と受け取れるような反応を見せる。
「雇ったとこが何なのか話し、金輪際俺の邪魔をしなければこいつには手を出さないで退いてやろう」
「……………マガノル」
そう言うと、和也に向かって何か小さな物を投げる。
「ッ!これは……」
この戦いで初めて和也の表情に驚きが現れる。
「マガノルのバッジだ。依頼が失敗した以上必要のない物だからな、くれてやる。それと、お前の邪魔をしないということだが、また会う可能性がゼロということもないが、極力お前とは出くわさないように選ぶ仕事には気を付けよう。お前は案外手こずる相手のようだからな。……お、おい、聞いているのか!?」
女が和也の顔をよく見ると、和也は何かに怒ったのかとても怖い顔をしてバッジをじっと見ていた。
腰の刃物に手を当てるが、不意討ちが出来るかもしれないがこいつが倒れているこの状況でやるのは得策ではないと判断し、手を刃物から離す。
「あ、ああ、了解した。せいぜい邪魔しないでもらおう」
そう言って何歩か下がると女は男の方へ走って屈み、気絶した男を担いで槍を拾って高く跳躍し、建物の屋根を走って去って行った。
「ふぅ、いやー生きてる生きてる!危なかったあ、死ぬかと思ったよ。それより、ナイスアシストだったぜ」
和也がスマートフォンを取り出すと画面が自動的につき、
「んもー、酷いよ放置してくだなんて!」
アマテラスが画面の中からいつもの恥ずかしい服装で現れた。
「悪かったな、それにしてもよく合わせてくれたな。隠れてる時に打ち合わせはしたけど短い連絡だったしこんなことやったことないし命中するか不安だったよ」
「まあ、和也が何考えてるかなんてすぐ分かるよ、長い付き合いだもんね」
「だな、でもまさか相手も空から攻撃されるとは思ってなかったろうな」
夜空を見上げるがここはかなり暗いしこれでは黒いドローンに気付くのは簡単ではないだろう。
「ドローンを遠隔操作して落として当てるなんて普通手段としては考えないだろうね。まあ夕方に飛ばしたのを和也が回収し忘れたって偶然の産物だけどね」
「へいへい、悪かったよ。いや、それにしても何であんな冷静でいられたんだろうな?意識して強がってはいたが……まっ、いっか」
軽くあしらうと、和也は落ちたドローンを拾い、バッジをポケットへ突っ込んで歩き出す。
「元々和也ってば臆病だもんね~」
アマテラスが茶化すが、それは一切和也の耳には届いていなかった。
ただ、考えや感情が口に出たのか、たった一言だけ呟いた。
「……ようやく見つけた」
その数十分後、警察官の浦上信彦はパトカーから降り、和也らが戦った場所を見渡した。
「ここッスね、通報のあった場所は」
「刃物を持った奴らが戦ってると通報があったが、特に何か痕跡があるわけでもないな。ん?これは生徒手帳か……?」
道端に落ちていてもおかしくはないが気になるので拾い上げてパラパラと中を覗くが、何の変哲もないただの近くの高校の生徒手帳だった。
「特に何もないッスね。別に何か壊れた形跡もないですし。戻りましょうよ、先輩。俺腹減ったッス!どっか食べ行きましょうよ!」
「ん?ああ、そうだな」
生徒手帳をしまい、パトカーに戻りながら何か引っ掛かると信彦は感じたが、その思考はダルそうにあっさりと調べるのを打ち切った後輩によって止められ、消え去った。
そして、某所にて。
「失礼致します」
スーツ姿の長身の女性が一言述べながらドアを開けた。
その向こうには床や壁が白で覆われた部屋がある。
女性はこの部屋へ足を踏み入れていく。
その部屋には大きなベッドが置いてあり、一人の少女が仰向けで寝ている。
が、白いカーテンのような布で遮られて女性から見えるのはシルエットだけで、少女の服装や表情は見えない。
「どうした?」
ベッドから冷たく、威圧感がある声が発せられる。
「例の者が敗れました」
女性は冷たい返答に対し動じることなく報告する。
「そうか、それでいい。いや、逆にそうでなくちゃ困るからな」
「奴らはいかが致しましょうか?」
「適当に切り捨てておけ、あれの出番はもう終わりだ。私の計画の幕開けには少々雑魚過ぎたやもしれないが、まあいいだろう。あれにはメッセンジャーになってもらえばそれでいいのだから」
「承知しました。して、次の手は」
「それは後で命ずる、下がれ」
「はっ」
女性は一礼するとベッドに背中を向け、部屋を出て行った。
その直後、少女はベッドの上に転がっているぬいぐるみを掴み、ぎゅっと身体全体で優しく大切に抱いた。
少女の顔に優しさがどこかに備わったような、しかして冷酷な笑みが浮かぶ。
そのまま何回かゴロゴロと寝返りを打つと、ぬいぐるみを両手で天井に掲げ、呟く。
「やっと始まったんだね。いよいよだからもう少しだけ待っててね」
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