第5話 死神と仲間(仮)

「で?何で夜の学校に侵入して歓迎会やるんだ?」


歓迎会をやるからついてこいと言われた俺は真っ暗な学校に不法侵入していた。


神楽坂がドヤ顔で自慢気に説明する。


「ここが俺らのアジトってわけよ」


校舎の階段を登ると、4階から一つ上が屋上になっている。


無論屋上はいつも閉まっているため近づく者もほとんどいない。


神楽坂は屋上に繋がるドアを4回それぞれ左上、右下、右上、左下の順番で軽く人差し指の先で叩いた後、ドアを開けた。


するとそこに広がってたのは、殺風景な屋上とは程遠い大きな家だった。


外から見る手段が無いので建てられたものかどうか怪しいが、2階建てでキッチン、個室、大きなリビング、練習場のような広い空間、大浴場まで揃っていた。


「うおおおおおおおおお!!!すっげえええええ!!!」


すっかり興奮して目を輝かせて叫ぶ俺を見て奈美がクスクスと笑う。


「そういう面もあるのね」


笑われてムスっとなるが開き直って、


「フン、俺は元から笑う時は盛大に笑ってキレる時はしっかりキレる男だ。ちなみに自己中だから自分を犠牲にしてまで仲間を守るかと言われたらノーだ。それよりこりゃどういう原理だ?」


メンバーの1人、高梨比奈が、


「ここはうちらの作った異空間、それを家という形に作り変えて学校の屋上と繋げたんや」


「そういやお前らの能力聞かされてないけど誰がこれ作ったんだ?」


「ああ、ちょっと連れて来るから待っててや」


そう言って比奈は2階の大きなリビングの方へと行ってしまう。


1分ほど待ってると手のひらに何かを乗せて戻って来る。


手のひらを覗き込むと……


そこには一匹のインコがいた。


「インコ……?」


「おう、なんだこのガキ、じろじろ見てんじゃねえぞ。見世物じゃねえんだぞこちとら。ぶっとばされてえのか」


インコが随分とおっさんみたいな渋い声で喋りだす。


「誰だこのインコにこんな口悪い言葉教えたの」


さっきは比奈の腕を掴んで後ろからオロオロと怯えるように覗きながら見てただけの群上良太郎が、


「いえ、ぼ、僕らの中にこんな喋り方する人はいませんですよ。出会った時からこうだったみたいです。すみませんドランが失礼な事言って」


「ドラン?」


「か、勝手に決めたんですよ、じ、自分の名前ぐらい自分で決めるって」


そんなちょっと頼りなさそうな良太郎に、


「おい、坊主、もっとシャキっとしろよシャキっと、炒めすぎてしなしなになったキャベツみてえだぞ。そんなんだと戦場で真っ先に死んじまうぞ。お前は心さえ強け負けないんだからよ、もっと自分に自信持てよ」


比奈の手のひらの上で可愛らしい外見とは裏腹におっさんな声で偉そうに説教しだす。


「橘の能力は精神的なもんなのか?」


「おうよ、こいつのは自分の心、メンタルが強けりゃ強いほどそれが自分の外、つまり体なんかに影響するっつうもんなんだよ。けどな?逆に弱くなりゃそれに応じて体とかも弱くなるっつうのが駄目な部分でよ、元々の性格がこんなんだから今はダメダメっつうわけよ」


「ちょ、ちょっと!勝手に言わないで下さいよ!後からちゃんと自分で言うつもりでしたですのに!」


「なら問題はないんじゃないのか?」


「ちょっとしたことでもこのチキン野郎には勇気出さねえと出来ねえ問題なのよ。全くもって情けねえことだよ」


馬鹿にされて心に火がついたのか精一杯対抗する。


「う、うるさいです!か、歓迎会のチキンにしますですよ!」


「てめえがなれ、このチキン野郎!ウダウダしてんじゃねえよ、この俺様が鍛え直してやる!」


比奈の手のひらから飛び立ち、良太郎をくちばしでつついたり羽根をバサバサさせて攻撃しだすドランに、キッチンの方へと逃げ出す良太郎。


俺は逃げ出した方向を指指すと、


「あれはいつもあんな感じなのか?」


真顔で質問する。


春になりもう暖かい時期だというのにモコモコしたネックウォーマーを着けた『ミク』とだけ名乗った少女が、


「残念。あんな感じ。迷惑。うるさい。鳥籠要求。ヘッドホン推奨」


と呟くと無言で本を取り出し、読み始める。


自由気ままな子のようだ。


八雲はこの光景を見て苦笑いするしかなくなっていた。


「…………………うん、何かうるさくなっちゃってるけどいいか!とりあえず和也!ようこそ我らが拠点『名もない一軒家』へ!」


良太郎とドランが離脱してキッチンへと行き、ミサが絵を描き始める中、無理矢理話を曲げ、アジト『名もない一軒家』を紹介する神楽坂。


彼も彼なりに気苦労があるのかもしれない。


「それじゃ、歓迎会始めちゃいましょうか」


ここに来る途中スーパーに寄って買ってきた惣菜やお菓子を皆でリビングの大きなテーブルに並べ、比奈が一方的にやられている良太郎を回収してドランには好物の植物の種を与えて落ち着かせる。


「それじゃ、九十九君の『グロル』入団を祝ってか」


「ち、ちょっと待て!」


驚いた和也は乾杯をさえぎる。


「ん?どうしたの?九十九君?」


「どうしたもそうしたもないよ!これ組織名あったんだな!まあ名前の有無は大した問題じゃないのかもしれないけど!」


「まあ、「この組織」とかだとどうしても呼びづらいからね。じゃあ改めてグロル入団を祝ってかんぱーい!」


「かんぱーい!」


「乾杯」


「か、かんぱい」


「こ、これからよろしく。あ、一応まだ信用性が足りないし皆の能力の説明してもらっていいか?いきなり入れっつわれたんだ、それぐらいしてもらわねえと」


ちなみにこの空間がどうなっているのかは知らないが、出来る限りの逃走や防御、脱出の準備はしてある。


だが、神楽坂もいるしいきなり後ろから刺されるようなことはないと願う。


「ふむ、それもそうね。じゃあ私から。知ってるだろうけど私のゼーレは『天使の翼エンゼルフリューゼル』、まあ翼で飛んだり自由に変形させて攻撃したり防御したり」


座ったまま背中から翼を出して様々な形にぐにゃぐにゃと動かしている。


「まあさんざん見学させて貰ったから今更見なくてもあらかた分かる」


「つ、次は僕ですね。ドランに言われてしまいましたが、改めて。ぼ、僕のゼーレ『波打つ精神ヴェールガイスト』は僕の心さえ強くなればそれが表面にも出るという…今はこんな感じですが、精一杯頑張ります!」


「良太郎は自分のペースでやったらそれでええ。ゆっくり頑張りや」


「は、はい!」


隣の高梨が良太郎の頭を撫でる。


母性本能のようなものがはたらいているのだろうか。


「ほんなら次はうちやな、うちのゼーレは『無限延展』っちゅうもんでこんな風に体延ばしたり細くしたりと自由に曲げられるんや。ちなみに色も変えられる優れもんや」


と腕をねじったり伸ばしたり薄くしたりして見せてくる。


「後ろ向いてみ?」

言われた通りに後ろを向くと肩に銃が突きつけられていた。


動じる様子を見せないように黒い愛シュバルツリーベで手を覆い、ゆっくりと銃を取り上げる。


なるほど、おっかないし敵に回したくない能力だ。


それよりも………


『銃』


それがやはり出てくるか!


いつかはと思っていたがおっかないし早く銃弾への防御策も立てなければ。


あいにく銃弾に反応してそれを叩き落とすなんて芸は俺には出来ない。


あくまで肉体はただの高校生なのだから。


シュバルツリーベでオートで防御が出来れば楽なのだが今は意識しないとすぐに崩れてしまうのでその領域までは果てしなく遠いだろう。


やることがいっぱいだ。


などと考えていると、


「んじゃ、次は俺な。まだ和也にも見せてなかったな。俺の能力は『霊獣』っつってまああれだ、見た方が早いだろうな」


そう言って立ち上がり、俺にも立ってこっちに来るように促す。


神楽坂が床に手をかざすと、その空間に光が四つ現れ、数秒ほどすると、四体の小動物が現れた。


「白猫、小鳥、蛇、亀、龍?」


「まあそう見えるよな。何しろでっかい姿で出したら色々壊れそうだからこういう室内ではこの姿でいてもらってんだよ」


「おい、てめえ新入りか?先輩に口きく時は礼儀ってもんがあんだろうが!」


ヤクザみたいな喧嘩腰の自称白虎、現白猫が俺を見上げながら叫んできた。


しかし見た目はただの白猫なので全く恐くない。


多分こいつアレだ、『喋らなきゃ可愛い』ってやつだ。


しゃべり方からしてドランと仲悪そうだな。


いや、こういうタイプは意気投合さえすれば逆に仲良くなるのか。


こいつらと長く仲間になるなら上手く付き合っていきたいものだ。


「びゃっさん、初めて会った人に騒ぐんじゃないよ、相手によっちゃあその人の機嫌でも悪くしたら一瞬でめったうちにされちゃうですよ今のあたし達は」


落ち着いた様子の蛇がとぐろを巻きながら白虎を諭し、蛇の下で土台のようになっている亀が無言でうんうんと頷く。


「うっせえ、呑気に構えてたらお前らこそステーキにされるかもしんねえぞ。どっちが強いかってのは最初に決めとくもんなんだよ」


「やめてくれよ二人とも、騒がしくしてまた若宮さんにしごかれるのは勘弁ですよ僕は」


龍…といっても空飛ぶ蛇にいくつか体のパーツが変化して手足がついたようなあまり威厳があるとは言えない龍が二人を止めるが、そんなのお構い無しと言うかのごとく出てきたばかりなのにその場で寝てしまっている朱雀……もとい赤い小鳥。


随分個性的な連中のようだ。


「まあこんな感じよ、大きい姿は今度見せるさ。以上が俺の能力だ。まあ基本的にはこいつらに戦わせるって感じだな。つまり俺自身はただの一般人に等しいってことを覚えてくれてりゃそれでいい」


神楽坂がテーブルに座ったので和也も席へと戻る。


すると、本を読んでいた「ミク」と名乗った少女が顔を上げて、


「私。治癒。以上。右手出して」


短くそう言うと、言われた通りに出した右手に手をかざし、あっという間に右手の甲に出来た擦り傷を治した。


しかし、治したと思ったら、すぐ手を離してまた本を読み始めた。


「なるほど、これだけの情報を出してくれたんだ、しゃーねえ、入ってやるさ。処理するなら既にしてるか今すぐされるだろうし、お前らについていけば何か見えてくるだろうしな」


「よし、じゃあ正式に入団決定だな。これからよろしくな、和也」


「1つ聞きたいんだが……人を生き返らせる能力を持ってる奴を知らないか?」


その瞬間、この場にいる全員が凍りついたような空気になった。 

「さあ、知らないわね。けど、私たちと行動してればいつか会えると思うわよ」


「逆きそうでなくちゃ困るけどな。あ、そういや今何時だろ?」


ふと、腕時計を見て時間を確認する。


が、どうもおかしい。


時間が全く進んでいない。


学校についた時に学校の大きな時計で確認したが、その時から全く時間が経っていないのだ。


「この家はね、外と時間の流れが大きく違うのよ」


「確かに時計の針の動きが遅いな、するとじゃあここは何時間でも修行出来るよみたいな場所なのか」


お菓子を食べ続けながる神楽坂が嬉しそうに、


「修行、やってくか?」


「断る、今日はそろそろ帰らせてもらおう」


「なら泊まってく?ベッド付きの個室あるから寝れるわよ」


「まだ信用しきれねえし寝首かかれたくねえから用心して帰らせてもらおう」


そう言って立ち上がって玄関へ進み、靴を履いてドアを開けると、学校の階段が見えた。


なるほど、学校とこの家がどういう原理か繋がってるのは分かった。と感心と興味をくすぐられながら学校を出る。


大きな出来事が起こった長い1日が終わろうとしていた。

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