第18話 最終話 星の降るときに
でも、ごくたまに、写真がしまってある高校時代に使った、今は緑の色があせて古びた印画紙の箱を、思い出したように、埃をはらって開けることが、ある。
戻ることのできない、あの時。
だが、あの月の下で杏子やみんなと共有した時間と感動があった。それだけは、永遠に変わらない事実だ。
眠さをこらえて屋上で撮った写真。
その中で朝の眩しい光に包まれてみんながいる。
俺も杏子も…………。
あの夜、思い切って「好き」そう、一言だけ、言葉にすれば良かった。
……ある真夏の夜。
高原の道を、仕事などで必要にならなければ運転することは無かったであろう、車を走らせた。
車内に流れる曲のクリアな音質、カセットテープだったときは僅かにノイズが入った音とは比べものにはならない。
昼は草原の緑が眩しいが、太陽の光が無い夜になれば街では感じることのできない深い闇と静けさがあたりを覆う、そんな山の夜。
高原を抜ける道路の脇に車を止め、カーオーディオのボリュームをあげ車のライトを消し外に出た。
そこに星に満ちる夜の空が広がっていた。
向こうには街があるのだろう、そこだけ微かに空が明るくて山の輪郭を形作る。
月の無い夜空。
街では決して見ることのできない、杏子が見たら感動したであろう天の川。
淡い光の川が流れ、星のきらめきが天空に広がり心を宇宙へといざなう。
星が流れて、あの夜の曲が、星空に拡がってゆく……。
……今の星の光が昔の光なら……。
屋上で杏子の写真を撮ったあの日の光景。
今も、あの時の自分は杏子とともに、宇宙のどこかを旅しているのではないだろうか。
山の冷たい、けれど、心地よい大気と星空が自分を包んでいる。
杏子が見たかった、美しく淡い天の川。
星空の下、後ろから杏子の「せんぱい」と、あの時の声が聞こえてくるようだ。
「好き」
星空に星が、また流れた。
星が空に満ちた、星降る夜だ。
星の降るときに 長野 トモ @naganotomo
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