第17話 そして……
あの春から、あの仲間達とはこれまで誰一人として会ってはいない。
だから今までみんなが、どんな人生を生き、現在どんな生活をし、何を考えているのかは分からない。
俺が退屈だ、などと思っていた、屋上からの景色。
太陽の光降りそそぐ杏子の好きだった、あの、屋上からの景色に、俺はなぜ、あの時、レンズを向けなかったのだろう?
今では、写真も金も枚数も気にせず撮れる。
あの時は一枚一枚の写真に金も掛かり、そして、あの日、自分の持っているフィルムの枚数だけが、使える全てだった。金やフィルムの枚数を気にして撮るべきものを撮らなかったのだろうか?
フィルムをもう一本買っておけば?
そうではない、本当は自分が当たり前にあると思っていたものを失って、初めて、何が大切なことか、後になって気づいただけなのだ……。
あの緑のあった場所は京子がいなくなった直後、突然に、巨大なスーパーや誰かの家になるための工事が始まった。
もう、高校の屋上からの景色も、だいぶ変わってしまったはずだ。
卒業してから、高校の前の道すら、使うこともなかった。
だから、街を離れた、自分の中にある、屋上からの風景は以前のままだが。
今ではあの月食の日に撮影した、街の光に、ぶれたみんなのシルエットが浮かびあがる、そんなの写真を眺めることも、ほとんどなくなっていた。
それが、大人になるということなのだろうか?
そんな俺は、果たして杏子の喜ぶような生き方をしてきたのだろうか?
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