第3話 それでもこの冷えた手が

二人は固く手を握り見つめあった。


「相変わらず冷たい手ね。」


アイルが微笑んだその瞬間、目もくらむような閃光が二人を包み、彼らの周りを塵と化し、何もかもを無に還していった。











「マルク! マルク!

あぁっ、マルク!

よかった…気がついたのね。」


「アイル様?

どうしたんだ私は。

朽ち果てたと思ったのに。」


「導師様が助けてくださったの。」


「さすがに生き返らせることは無理だがの。肉体の再生はできたようじゃ。」


「! おわかりになられたのですね。」


「肉体に術がかけられていたのでな。」


「彼女が…アイル様が帝都にたどり着き、その身に帝位を受ける日まで、私は朽ちることはできないのです。アイル様がこの国を幸せに導き、アイル様自身も幸せになられるその日まで。」


「ならば、より強力な術が必要じゃな。」




私は一年をかけて強力な術をほどこされ、肉体は魔人のように大きく強くなった。

導師の弟子を一人仲間につけてもらい、これからなすべきことも教え込まれた。

アイル様も回復ヒールの術を習い、誰も失うことのないようにと日々努力されている。




私にはもう命はない。

命はないけれど、

それでもこの冷えた手が、

あなたが幸せになるその日まで、

あなたを包んで守れればいいと、

心の底から願っています。


たとえ肉体は魔人と化しても、

あなたの体を温めることはできなくても、

心だけでも温めることができれば、

いつ朽ちても悔いはない。


アイル様…

ただあなたのためだけに。



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それでもこの冷えた手が 紬季 渉 @tumugi-sho

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