My chocolate story

紅雪

これはわたしへの

寒い北風が吹きつける窓の外を眺めながら

暖房の効いた部屋で携帯を握りしめながらピンク色の紙袋を見つめた。


バレンタインが近いデパ地下で衝動買いしてしまった「自分用」チョコレート。


開けようとして、ある人の顔が浮かんだ。

あいつに、元カレに買ったんじゃないのに

まだ開けてないから

呼びだしたら「いいよ」ってきてくれるんじゃないのって

何に期待してるの?


もう誰かと付き合ってるよ。


綺麗な顔立ち、話し上手、気配りができて、優しい


最高だって思って、ちょっと声掛けられたくらいで調子に乗って

「付き合う?」って誘いに二つ返事でOKした自分が馬鹿だったの


そりゃあモテるよね

二股くらいかけられるよね


「違う、ただ一緒に歩いてただけ。彼女はお前だけだ。」

嘘だよ。

そんな見え透いたセリフ。

どんなに必死な顔して訴えたって騙されないんだから。


こんななんのとりえもない私のどこがいいの?

一緒に歩いてた女の子のほうがもっとずっと美人だったじゃない

少しだけでも夢見させてもらえて良かったじゃん。


やっぱ軽いやつだったんだよ


「もう嫌だ。聞きたくない。別れる。」

って言って

それきり。

追いかけてくれなかったから。やっぱりそれくらいのもんだったんだって

無理矢理自分を納得させてきたつもりだったのに

どうして、どうしてよ

あいつにあげたかったって

受け取ってもらいたかったって

ありがとう 大好きだよ って言ってもらいたかったって思ってるのよ


『駅前で17時に会いたいの』


今日は2月14日

彼女がいるなら、きっと彼は来ないと思う

でも、もし来てくれたら

チョコレートを渡してみよう


彼にもらったピアスをつけて駅の隅で震えながら待った

何人ものカップルが幸せそうに手をつないでこの場を立ち去って行く

寒くて、鼻の奥がツンとしてくる

紙袋を下げた手がかじかんで力が入らなくなってきた


私が、悪い

これは自分が望んだ結果だろう

彼の話も聞かず飛びだした罰だろう

だからこれはやっぱり自分へのチョコレートだ。


帰ろう


改札へ足を向けた、その時だった


「もう帰るの?」

私の腕を誰かが引いた

「ずっと下ばっかむいてさ。俺のこと探す気ないでしょ。」

驚いて振り向いたそこに

「なに泣きそうな顔してんの。泣きたいのこっちなんだけど。」

来て、くれた

ずっと、ずっと、会いたくて、会いたくて、たまらなかった人が、そばにいる


「まだ1時間半だよ?俺はお前からの連絡1カ月近く待ってたっていうのに、諦め早すぎなんだよ。」

嬉しくて、信じられなくて、言葉が出ない

「俺になんていうの?」

「ごめんなさい。」

「じゃあそれちょうだい。」

ピンク色の紙袋を彼に差し出す

彼はにっこり笑って

「これで仲直りな。」

私の額に軽くキスをした。


え?ただのけんかだったの?

私はほんとに別れてしまったと思って落ち込んでいたのに

なんて馬鹿なの


「”あんなこと”ぐらいで別れるわけないじゃん。俺浮気しないよ?本気で疑われてた?彼女から信用されてないのは、かなりへこむなぁ。」

久々のデートで言いたい放題

私だって言いたいことはあるよ

じゃあなんでそっちから連絡くれなかったのとか

もっと強くいってくれなかったのとか

「あの状況で何言ったって聞かなかったでしょ。」

だって。

はい、すみません


会えなかった分ずっとあなたと一緒にいたい

これ本当は自分用でしたなんて口が裂けても言いません、絶対に。




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My chocolate story 紅雪 @Kaya-kazuha

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