第8話「顔に張り付いた猫」
俺、ふしま。太ったしまの猫だから「ふしま」と呼ばれている。
今、
「ふしま〜モフモフさせてくれー。」
原導家の家長であるパパさんはふらふらと寝室に入ってくると
寝ている俺の横っ腹に顔をダイブさせた。
仕事から帰ってくる度にパパさんはこういうことをしてくるのだが、
はっきり言って俺は迷惑だ。毛を吸われる身にもなってくれ。
「うはー、吸ったすったー…あり?」
そう言うとパパさんの動きが止まる。
俺もついでに「ん?」となる。
「よいしょ」っとパパさんが立ち上がる。
なぜか俺も一緒に宙に浮く。
ん?何かおかしい。何かが変だ。
とっさに俺は近くに立てかけられた姿見に首を向ける。
そして、気がつく。
パパさんの顔に横向きの俺の体がペッタリと張り付いていた。
「うわー!ふしまの胴体が顔から離れない!」
両手を上げてパニクるパパさん。同じくパニクる俺。
ギニャーとかワーとか叫んでいるとママさんが怒った顔でドアを開けた。
「ちょっと、ふしまもパパも叫ばない!
物干し竿投げつけるわよ…ってなにそれ。」
槍投げの要領で物干し竿を持ったママさんもようやく気づく。
「何かぁ、ふしまの体が離れなくなっちゃってえ…」
情けない声を上げるパパさん。
だがママさんは迅速で、俺たちを車に突っ込むとすぐに医者に連れて行った。
「…うーん、顔に猫毛がくっついておまけに猫も取れないと。
まあ、呼吸と会話はできるから完全にはくっついてないでしょうし、
毛と顔のあいだにハサミを入れて分離してみましょう。須藤くん頼むよ。」
そう言われた医者の助手はパパさんの顎を俺ごと台の上に乗せハサミを入れる。
しかし、それが数ミリも進まないうちに不気味な声がした。
「ククク…ようやく会えたねえ、ふしまくん。
いや、ヒーロー協議会の派遣ヒーロー、Mr.ビームくん。」
なんだ?と顔を上げると、助手の男が片手に注射器を持っており、
医者は床でいびきをかいて眠っていてパパさんも同じく寝息を立てている。
「…私は歯車商会のDr.ポピンズというものだ、君のビームは非常に興味深い。
開発したこのビーム対抗服の実験も兼ねて、このまま君を捕獲したい。
…したいところなのだが、どうだい?ここでちょっと取引しないか?」
「ん?」と俺は顔をかしげる。するとDr.はこう続けた。
「…ついさっきわかったが、君は現在、磁石と同じ性質を持っている状態だ。
君のご主人が顔を引きはがせないのも、私の入れたハサミが引き抜けないのも
君に溜まったビームエネルギーが放出されていないせいだと考えられる…」
わけ知り顔で言っているが、ハサミを持った手を必死に離そうともがいている
ところを見ると、どうやらこいつ、俺にハサミを入れようとしたのだけれど
俺の体質のせいでハサミも手も俺の体にくっついてしまったらしい。
…というか、確かに最近ビームを出していなかった。
うーん、小出しにビームって使ったほうがよかったんだなあ。
そして俺は良いことを聞いたと思い、すっと右手をDr.に向ける。
「だからこそ交渉として…え?」
その瞬間、俺の右手からビームが出る。ビーム対抗服とやらを着ていたDr.は
それをモロにくらい壁の向こうまですっ飛んで行く。
そして壁に「ごんっ」と頭を打ってそのまま動かなくなった。
すると、その音に反応して床に倒れていた医者がもぞもぞ起きだす。
「んー、どうやら寝ていたらしい。昨日は完徹でゲーム実況してたからなあ。
…あ、コラ須藤くん。そんなとこで寝てないで患者さんを引き剥がすよ。
って、あれー?なんか取れちゃってるねえ。君たち。」
そして、起きない助手をその場に残したまま(医者はきっと彼も完徹でゲーム
実況をしていたに違いないと言った)俺とパパさんは無事に病院を後にした。
…
「ふっしま〜」
そう言うと、休日のパパさんは仰向けになった俺の腹に顔をすりつける。
俺は迷惑そうな顔をしながらもパパさんのするがままに任せておく。
結局、パパさんの俺に対するモフモフ欲は消えないらしい。
まあいいだろう。ビームさえ出しておけば問題もないようだし…
気がつけば、パパさんが俺に顔を乗せたまま、そのまま寝てしまっていた。
俺も一つあくびをし、ごろりと横になってパパさんの頭をどけると
開いたドアの隙間を通り抜けて自分の寝床へと向かうことにする。
バキンッ
その時、部屋のドアが外れた。
みれば俺の横っ腹にドアの側面が張り付いている。
俺はやれやれと首をふると、もはや慣れた手つきで
開いていた廊下の窓の外に向かってビームを放った…
猫光線(ネコビーム) 化野生姜 @kano-syouga
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