「ママさんヒーロー活動に巻き込まれる(後編)」

俺、ふしま。太ったしましまの猫だから「ふしま」だ。

現在ヒーロー協議会のせいで軍艦ひしめくゾンビ退治に巻き込まれたわけだが…


…いやあ、強化薬を打たれたママさんのすごかったこと。


俺を片手で抱きかかえたまま沈むことなく海の上をひた走り、

そのままジャンプして戦艦内へと単独で突っ込んでいった。


中にはうじゃうじゃゾンビがいて…なぜかMr.シーカーまでゾンビになって

群れに混じっていたが…ともかくそれをちぎっては投げ、ちぎっては投げし、

ようやく防護服を着たMr.ポーターとMs.ポットがワクチンを手に入れる頃には

船の中は死屍累々…いや、ゾンビだから積まれた死体が出来上がっていた。


「…いや、敵の組織から持ち出した強化薬がここまでとは思わなかったわ。」


Ms.ポットがワクチンの入ったケースのうち一つを取り出し、

複雑骨折状態でワーワー言っているMr.シーカーのゾンビに注射する。


「えーと…じゃあMr.ビームくん。ワクチンも回収したし、

 投与した被害者を別の場所に一斉転移するから、君にはこの船の始末を…」


しかし、Mr.ポーターの言葉が終わらないうちに俺を抱きかかえたママさんが

右手を上げさせる。その瞬間、俺のビームが船のエンジン部分を通過し…


ちゅどーん


『…火災により、軍艦「サワークリーム号」が沈没した問題で、政府間では…』


気がつけば、俺とママさんは原導家の自宅に戻っていた。

隣の沢儀さわぎさんの家から流れるラジオの声にママさんも目を覚ます。


「んんー、あら?ふしまを抱えて昼寝をしていたみたいごめんね。」


そう言ってママさんは俺を腕から離すと机に置かれた紙を見て首をかしげる。


「あら、これ何かしら。ええっと…『Mr.ビームくん、およびご家族の方には

 大変な迷惑をかけたことをここに謝罪する。Ms.ポットによると薬の作用は

 すでに切れており後は普通の生活が送れるはずということだ。ご家族には

 今回の協力とお詫びに心ばかりの謝礼を用意させてもらった。楽しんできて

 くれたまえ  Mr.ポーターより』…何のこっちゃい!」


その瞬間、ガチャリという音ともに「ただいま〜」というのんきな声がした。

ママさんが駆けつけるとパパさんが困り顔でボストンバックを引きずっている。


「あら、早い。あなた、どうしたの?」


パパさんは頭をかきながら重そうなボストンバックを玄関先にドスンと置く。


「いや〜、なんか乗ろうとした飛行機が急に満席になっちゃってね。

 事前予約してたんだけど、VIPの団体が乗り込んできてダメになっちゃった。

 みんな服とかボロボロで腐敗臭とかしたんだけど季節外れのハロウィンでも

 するのかねえ…会社の方も今日から僕が有給をとってるから休めって言って

 きたし。それより、これを見てくれよ。」


そうして、パパさんは何か縦長い紙を三枚見せてくる。

それを見た途端、ママさんは顔を輝かせる「これ、海外旅行券じゃない!」

するとパパさんは照れたように笑った。


「いや、帰ろうとした時にくじ引きをしたら当てちゃったんだよ。

 有給休暇も一週間はあるし、ヒロムもゴールデンウィークに入っているから、

 明日ヒロムが帰ってきたら三人で家族旅行に行くか。」


「きゃー!」ママさんは喜びのあまりパパのボストンバックをぶん投げる。


それはドアの外へと飛んでいき、向かいの家にある巨大な樫の木を

「ゴッ」という音とともに半分以上消しとばした。


俺はメリメリと倒れていく木を見つめた後、

一切素知らぬふりをして玄関先で午後の昼寝を決め込むことにした…

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