かえるの青春歌

澄ノ字 蒼

第1話 かえるの物語

 みーん、みーん。聞こえてくるのは、アブラゼミの鳴き声です。周りを見まわすと、緑色といっても少しずつ色の違う(個性のある)山々が青い空に向かって元気一杯に背伸びしています。


山のほとりには、平川と呼ばれる川が流れています。なんでも昔、平氏と呼ばれる人達がこの川に名前をつけたのだそうです。この川は、動物にとっても人間達にとっても生活の要です。


話は、こんなのどかな田舎から始まります。


「いい空だねえ。気持ちのいい空だ」

「そうだねえ、風が気持ちいいねえ~」


太陽が照りつける昼下がり、平川の片隅の大きい葉っぱの上で、二匹のトノサマガエルが寝そべって話をしていました。

 まず、麦わら帽子を被り、目のきょろっとした……口の下の黒い点が目印のカエルは、カー坊。もう一匹のカエル……腹が出ていて、目が小粒、体が大きいのは、ルー吉。二匹は、いつもここに来ては、二匹で日向ぼっこしています。


「なあ、カー坊。めしのうまい店しらないか」


 カー坊は、目を閉じ気持よさそうに欠伸しながら答えます。


「そうだなあ、最近できた店なんだけど、珍しい昆虫を出す店があるんだ。安いんだぜ」


「おれ食べることが生きがいなんだよね。食べている時が一番幸せ。今度一緒に行こうぜ」


 ルー吉は、白い出っ張った腹をさすっていました。カー坊は、オッケと言いました。二匹はしばらく黙り、川のせせらぎに耳を傾けました。川のとくとくという流れの音が耳に気持ちよく響いてきます。それにときどき、さわさわと風が流れてきて、二匹の体を通り抜けます。


「なあ!」


 カー坊が沈黙を破りました。ルー吉が、なんだ? と聞きます。


「幸せってなんだろう?」


カー坊はしばらく答えを待ちましたが、ルー吉は黙ったままでした。


 次の日の朝、カー坊は水辺で昆虫を探していました。この場所は一年中湿り気のある場所なので、乾きやすい体をしているカー坊にとっては安心です。


 カー坊はえさを探し始めました。好物は昆虫又はみみず。一生懸命探します。探しながらふと思いました。


(毎日、何もない生活……こんなの幸せって言えるのかな?)


しばらく目を閉じて考えていました。すると、腹がくうとなってきました。考えるのが面倒くさくなったカー坊は、考えるのをやめ昆虫を探しはじめました。


昼。カー坊とルー吉は、大きい葉っぱの上で寝そべって話をしていました。いつもの通りの何気ない会話。事件など起こりもしないようなのどかな昼。


 しかし、三時過ぎになると、太陽に雲がかかってきました。二匹はこの日はもう帰ろうかと相談していた時のことです。ルー吉は、目をまん丸くして辺りを見回しました。


「どうしたんだい?」


カー坊は、聞きます。


「さっき草が、がさって音したんだ」


二匹は、耳を澄まします。しかし、聞えるのは、風の音と川の流れの音だけでした。


「気のせいじゃないの」

「そうかなあ」


ルー吉は照れくさそうに頭をかきます。二匹は歩き出しました。カー坊はふと草むらのほうをみてみました。するととんでもないものが目に入りました。


蛇です!


あわてて、ルー吉の肩を叩いて草むらを指さしました。

「蛇だ~」

ルー吉の悲鳴が、そこら中に響きます。へびは、二匹におそいかかってきました。


二匹は、逃げようとしましたが、カー坊の足が、草に引っ掛かり転んでしまいました。すぐに立とうとしましたが、足をくじいたのか立てません。カー坊は焦りました。


(食べられる! いやだ! いやだ!)


「まだ、生きたいよう! たすけて!」


カー坊は、泣きながらうったえました。そうして、ルー吉にしがみつきました。身勝手でしたが、カー坊は必死でした。ただ、生きたい。それだけでした。その様子を見ていたルー吉が蛇の前に仁王立ちになりました。


「カー坊! 今までありがとな。ずっと忘れないから! だから……」

ルー吉は、叫びました。


「今のうちに、逃げてくれ~!」


 ルー吉は、蛇に向かって突進していきます。そして、木の枝をふりまわし、戦いはじめました。カー坊の目からは、涙があふれてきました。熱い涙がどんどんこぼれおちてきました。


 戦いは、ルー吉の方が負けそうでした。ルー吉の木の枝が、今のところ、蛇を近づけさせないというのが今の現状でした。捕まれば……終わり。命がけです。ルー吉の木の枝が蛇に向かって伸びていった時です。

蛇は木の枝をよけ、ルー吉に巻きつきました。


「ぎゃあ~」

 ルー吉の手から木の枝が落ちました。もがきます。

 どうしたらいいかわかりません。早くしないとルー吉がしめ殺されてしまいます。(助けないと……)でもカー坊には、勇気がありません。涙ばかりがこぼれおちてきます


 その時です。カー坊と、ルー吉の目が合いました。ルー吉の目は、うるんでいます。自分のために命をかけて助けてくれようとしたルー吉が死にそうになっている。カー坊の心がずきんと痛みました。カー坊はいつの間にか叫んでいました。


「ルー吉!待ってて!! 今助けるから!! 」


カー坊は、もうためらいませんでした。足を引きずり蛇に向かって体当たりしました。蛇はのけぞりましたが、まだルー吉をしめ続けています。

 カー坊は、ルー吉がさっき持っていた木の枝を手に取ると、蛇の白い腹に向かってつきました。


蛇は叫び声を上げるとルー吉を離しました。カー坊は、すぐさまルー吉にかけより声をかけました。


「大丈夫?」

「うん」


ルー吉は、ぜいぜい息をしながら答えました。そして、立ち上がって木の枝を手に取りました。カー坊とルー吉は、蛇に向かって木の枝をかざしました。


蛇は、しゃあという声を出し威嚇してきます。しかし、カー坊はゆるぎません。ルー吉も真っ直ぐ蛇をにらんでいます。蛇はカー坊とルー吉をにらむと後ろを向いてずるずると去っていきました。二匹は歓声をあげました。


「やった~」

「やったな」


二匹は、男泣きに涙を流して抱き合いました。しばらくして離れたあとカー坊がこんなことをいいました。


「ぼくは、幸せだ」

ルー吉は涙を流しながら、カー坊を見ています。


「こんなにもいい友がいるんだもの!」

ルー吉も言いました。


「ぼくもだ。こんな幸せなことないよ!」

そういって二匹はまた泣きました。

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かえるの青春歌 澄ノ字 蒼 @kotatumikan9853

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