おまけ 全部読んでから読むのを推奨します。

the dearest one


私は絶望した。


信じていた、愛されてると思った。でも違った。

ママは私をお金で売った。幼いながらもわかった。


私は愛されてなんて居なかった。


思い返してみればそう言う節は沢山あった。これは、初めから決まっていた結末なんだ。

だから、できるだけ前を見ようと思った。



そして、新しい世界で彼女に出会った。



私たちは名前を捨てて番号で呼ばれる様になった。

私はNo.12。

そして、彼女がNo.7。

私よりも身長が低くて切り揃えられた白髪に読み取れない表情。茶色の瞳は、いつもどこか遠くを眺めているようで…それはとても彼女の孤独を感じさせた。

だから、私はこの子の傍に居てあげたいと思ったんだ。私が味わった絶望と孤独を彼女には味あわせたくないから…



彼女はとにかく無口だった。

話しかけても返事は無く、意思表示はただ頷くだけで頑なに口を開かない。


ある日彼女は本を読んでいた。

「何を読んでるの?」

いつも通り返事は無いとは思っていたが、その時は違った。

「…宵闇を歩くもの」

返事が返ってきた。私はそれがとてもうれしくてついつい彼女を質問攻めにしてしまった。

それはどんな話なのか、どんなところが面白かったのか、好きな登場人物は誰か…

No.7はそれを一つずつ丁寧に答えてくれた。

それから私たちの距離は一気に近くなった気がした。



私たちはいつも二人一緒だった。

メンバーの中で唯一私たちだけが女の子だったと言うのもあったのかもしれないが、それはとても自然な事だったのかもしれない。

そんな中いつごろからかNo.10がよく話しかけてくるようになった。

彼は、誰に対しても分け隔てなく平等に接し、誰からも頼られるような存在だった。

「二人は、いつも通り仲が良いな」

「えへへ、そうかなぁ」

そう言われるとなんだかむず痒い感じがしながら照れてしまう。

No.7はいつも通りに無表情で何を考えてるかわからないけど、彼女も心なしか嬉しそうだった。

「ふーん、そうか」

No.10は急にそんな事を言い出して、その場を後にした。私にはわからなかったけど、後で聞いたら彼は人の心が読めるらしい。それが彼の特別な力…


ここに居る子はみんなが特別な力を持ってる。

最初から持っていたわけじゃなく、お薬の力で手に入れた力。

私の力はどんな怪我でもすぐに治る力。No.10が人の心を読む力。

No.7が…今はまだわからない。

大人たちは絶対能力があるはずだという人たちと、出来損ないと言う人たちが毎日の様に喧嘩をしている。

どうしてみんな仲良くできないんだろうか…

そうすれば皆笑顔でいられるのに…





それから、時間が経って…

ある日を境にNo.7は私を避ける様になった。目が会えば逸らしてどこかへ行ってしまうし、話しかけても無視されてしまう。

「私、何かしたかな…」

まったく思い当たりは無かった。

それくらいの時だった、私の研究内容が変わったの。

私の再生能力の度合いを測るためと言い毎日酷い暴行を受ける様になった。

「No.12のポテンシャルはNo.1すら凌駕できる筈なんだ!」

「彼女には闘争心や競争心が足りない」

「お前に必要なのは仲良しごっこなんかじゃない」

そんなことを毎日言われながら、いじめられる日々。

最初は鞭打ちのような仕打ちから次第にエスカレートして行き、最終的には私の手足をノコギリで切り落としたりされた。

私の手足は切り落とされても新しく生えてくることは無かったけど、切り落とした腕を元の位置にくっつけると綺麗に治る。けど…痛みが消えるわけじゃない。

私は毎日悲鳴を上げてそれに耐えていた。それでも心は次第に弱って行ったんだ。



私は実験の最中嫌になって抜け出した。血まみれで、貧血のような症状が出て、目の前の状況もよく呑み込めない。

何人かとすれ違って皆が私を見て驚いてはいたが、誰も横をすり抜けていった。

「大丈夫?」

不意に声を掛けられる。

顔を上げるとそこには彼女がいた。

「…あ、No.7」

私は、彼女の顔を見るとなんだか少しほっとした。それまで張りつめていた緊張の糸が切れる様に前のめりで倒れ込んでしまったが、彼女が体を支えてくれたおかげで地面にぶつかる事は無かった。

「何があったの?」

「ただの能力開発。私の能力は再生能力だから、どこまで再生できるのかってちょっと色々されただけ」

実際はちょっとなんてものじゃなかったけど、彼女の前で少しだけ見栄を張りたかっただけなんだと思う。

「これは、やりすぎなんじゃないの?」

彼女が心配してくれてる。私はそれだけで十分だった。


それから、彼女と一緒にシャワーを浴びる事になった。

久しぶりに彼女とお話ができてとても楽しかった。

ただ、No.7は時々上の空になってたのが気になったけど…



それから数日後に事件が起こった。

No.7がNo.5と殴り合いの喧嘩をしてるって聞いて駆けつけて見たら、人だかりができていてそれをかき分け前へ出ると

「なんだか騒がしくなってきたね」

「まったくだ、馬鹿馬鹿しい」

「そう思うなら降参したら?」

「お前が降参しろ!」

そんなことを言いながら二人は殴り合いを続ける。そして互いが互いの顔面に拳を打ち込んで両者が膝から崩れ落ちた。

私は思わず駆け寄り。

「No.7大丈夫!?」

そう言って彼女を抱きかかえると、彼女は黙ってサムズアップを見せる。

そこにNo.10や他の子たちも集まって来て、No.7を称えたりして気が付いたら私は後ろに追いやられていた。


「あっ…」


この時私は気づいてしまったんだ。

最初は、彼女を孤独にさせないようにって思ってた。でも違ってたんだ。

本当は私自身の孤独を紛らわしたい為に同じような子に近づいたんだ。

他の仲間たちに囲まれるNo.7を見て私は思った。


本当に孤独なのは私だけだって






最終実験の内容が発表されて、私は愕然とした。

これは何かの間違いであって欲しかった。

けど、現実はこうも残酷だった。

私たち被検体12人による殺し合い。最後に生き残った者だけがこの実験の成果となる。

「私たちならきっと大丈夫だよ」

そんな事を何の根拠もなく言った。

そんな不安一杯の心で私は一方通行の扉をくぐった。


あぁ、くぐってしまった。


幸か不幸か、私は誰とも遭遇せずにNo.7の所にたどりついた。

そこに居たNo.7は雰囲気が違っていた。

「No.7?」

私に声をかけられゆっくりと振り向く彼女は顔まで血まみれで、茶色だった瞳の色は燦然と輝く宝石のような紅色になっていた。その瞳で見られた瞬間私の体はピクリとも動かなくなってしまった。

恐怖…と言うよりその瞳の美しさに魅了されたかの様に…

私の問いかけに何一つ答えずに彼女は私の目の前までやって来て、ただ一言

「ごめんね」

それだけ言った。その直後彼女は私の喉元に噛みつきそのまま食いちぎってしまう。

全身から力が抜けて行くのがわかる。

仰向けに倒れた私に馬乗りになったNo.7は何のためらいもなくその真っ黒な腕を私の胸に突き立てた。そして私の胸からドクンドクンと脈打つ心臓を引きずりだし、それに噛り付いた。

私の意識は少しずつ薄れて行った。とても痛かった。とても苦しかった。


でも、それ以上に…



彼女の泣いてる顔を見るのが辛かった。




夢を見ていた。

No.7と一緒に星空を見ていた。リフレッシュルームの架空の空ではなく。本物の空を…

No.7はおもむろに立ち上がると

「行かなきゃ」

そう言って私の下を去って行ってしまう。


まって!行かないで!

あなたに行かれてしまったら私はまた独りぼっちになっちゃう!

私を一人にしないで!


しかし、その言葉は届かない。届かないんだ。

だって、彼女の心はここには無いのだから…



重い瞼を開くとそこには見慣れた天井があった。

幾度となく私を苦しめた部屋。

まだハッキリとしない頭を抱えながら体を起こすと見慣れた研究員が驚愕の表情を浮かべてこちらを見ていた。

「私は…一体…」

記憶もハッキリしない。最終実験…内容を聞いた所までは思い出せる。けど…そこから先は

研究員に様々な質問をされるけどどれも答えられない。そのことを考えると頭が痛むんだ。

そんな時だった。

「No.7と会った事も覚えていないのか?」

その質問を聞いた途端に記憶が洪水のようにあふれ出してきた。

私は

私は!


私は、No.7に捨てられた!!


だから私は独りだ!独りなんだ!




どれくらいそうしていたのだろうか


私は膝を抱えて部屋の隅で蹲っていた。

「私は、捨てられた…」

「そう、私は捨てられたのよ」

「でも、よく思い出してみて。彼女の最後の顔を」

「彼女は泣いていた」

「彼女は別れたくなかったんだ」

「彼女は今頃独りぼっち」

「だったら私が何をすればいいか一番よくわかってるんじゃない?」

私は徐に立ち上がり

「私は彼女を探すんだ!そうだ!まるであの物語みたいに私は探さないといけない!」

まるで霧が晴れていくような感じだった。こんな気持ちは初めてだった。



その日の晩私は数人の研究員に囲まれていた。

「話し合って決めたんだ、お前を『処分』する」

「主任には悪いが、このプロジェクト自体が終了したんだ。そして、お前を生かしておくのは危険だと判断した」

「悪く思わないでくれ」

そう言って彼らは私を押さえつけ何やら注射を打とうとしてきた。当然私はもがき抵抗をした。しかし、大の大人数人に抑え込まれて私は満足に抵抗なんてできなかった。


やめろ、私は探さなきゃいけないんだ!

こんな所で終わるつもりは無い!


思いっきり腕を振り抵抗すると注射を打とうとしていた研究員が吹き飛ばされた。

その光景にその場にいた全員が啞然とした。

よく見ると私の下腕部の中程の所から触手が生えておりそれで研究員を薙ぎ払ったらしい。

私はそれを使って他の研究員も薙ぎ払うと起き上がり腕を眺める。

触手は私の思い通りに動き、それは新しい手足が生えたような錯覚がしたが、違和感は感じなかった。

初めからあったみたいな感覚。なぜ今までなかったんだろうかと思うほどに。

その触手を研究員の一人に突き刺してみる。


あぁ、そうか


やり方は本能でわかっていた。

これで私たちは深い所でつながれるんだ。

これはそう、例えるなら『家族』だ。

この男はもう『家族』になったんだ。

『家族』なら、何でも言う事聞いてくれるよね。




そうやって私は『家族』を増やしていった。




…でも、そこに彼女が居ない。



探しに行かないと…




でもうまくいかなかった。

邪魔が入った。

『家族』になる事を拒んだあの男が、私をここに閉じ込めた。

よりにもよって、この偽りの空の下に私を閉じ込めたのだ。





閉じ込められてどれくらい時間が経っただろう

私は、電源の落ちた天井を見上げ続けていた。

そんな中考えるのはNo.7の事ばかりだった。

彼女は今どこで何をしているのだろうか?

彼女と再会したら何をしようか?

彼女は『家族』になってくれるだろうか?

その時急に電源が回復し虚無の天井は再び星空を写し始めた。

私は思わず立ち上がりあたりを見渡す。


彼女が来た!


不思議な感覚だった。

第六感とでもいうのか、それでもはっきりと彼女を感じ取ることができた。

それはとても嬉しくてうれしくてうれしくてうれしくて!

今すぐにでも彼女の下に行きたいけど、電源が回復してもこの部屋の扉は開かなかった。

壊そうと試みてみたけど私の力じゃこの扉も壁も破壊できなかった。

すぐ近くに彼女が居るのに会えないもどかしさで私は気が狂ってしまいそうになる。

あぁ、No.7!No.7No.7No.7No.7No.7No.7No.7No.7No.7No.7No.7No.7No.7No.7No.7No.7No.7No.7No.7No.7No.7!

私の愛しい人!

私のNo.7!

早く!はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく!


私の所に来て!


永遠にも思えるほどに待ち遠しい時間は、あっという間に過ぎて…

「…No.12」

背後からかけられた声に私はゆっくりと振り返る。

そこには、金髪であの時のコンバットスーツに身を包み黄金色の瞳で私を見つめている人影。

あぁ、間違いない!外見的差異はあるけど、私の中の私が確信している!彼女が!No.7がついに私の下に来た!

興奮が止まらない、沢山話したい事があった気がするけど考えが纏まらない!

「No.12迎えに来たよ。ここを出よう」

ここを出る?

そうね!『家族』皆でここを出よう!そして、私たちだけの世界を作るんだ!

「No.12!それは駄目!」

どうして?


どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?


彼女はどうして否定するの?

彼女は『家族』になってくれないの?

あぁ、彼女は私の事が『嫌い』なんだ…


「…ッ!違う!」


違わない!


「あなたは私を捨てた!」

「No.12!私は!」

「聞きたくない!」


私は!


私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は!


私は待ったんだ!こんな結末認めない!

彼女を『家族』にする!そうすれば、もうこんな孤独に苛まれる必要はないんだ!

全力で彼女を捕まえようとするが、彼女は全く捕まる気配はない。

それに、感じる。この違和感。

彼女の中に他に誰かが居るような錯覚。

その居場所は私の物のはずなのに!


彼女が眼前まで迫ってくる。

この距離なら外さない!

私の触手は彼女の脇腹をしっかりと捕らえ深々と突き刺さる。

「やった!これで…」

チクリと、首筋にほんの僅かな痛みが走り何かが流し込まれる。

それと同時に体から力が抜ける。能力が使えない。

No.7は脇腹に刺した私の触手を切り落としブレードを構え直す。

「…本当にごめん」

彼女はそう言うとそのブレードで私を袈裟斬りにした。

痛い。傷口からは血が噴き出し彼女を赤く染めていく。

力の抜けた私の体は崩れ落ち膝をつくと、すかさず彼女が私の体を抱きとめる。

「No.12、私…」

「いいの」

先ほどまでの興奮が嘘の様に引いて行き冷静な思考が返ってくる。

それと同時に死と言うものが現実味を帯びて来き、実感する。


「最後に…お願い…聞いてくれる?」

「何?」

「私の…名前をよんで…ナナリーって」

「ナナリー…ナナリー・エンフィールド」


あぁ、彼女は覚えていてくれた。かつて昔話をしたときに話した私の本当の名前…

彼女の中にちゃんと私は居たんだ。

それだけで満足。





夢を見ていた

それは、私たちが皆で星空を見ていた夢

作られた架空の空では無くて、本物の空の下で頬をなでる風に、香る草木の匂い。

そして、笑いながら話す仲間たち

みんな孤独だった。

でもそれは、孤独じゃないって事に気づけなかったからそう感じただけで、誰だって傍に気遣ってくれる人が居たんだ。


今なら、何でもわかる気がする。


No.7…あなたは一人じゃない。あなたの心にはちゃんとみんなが居る。




だから…






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No.7 lost numbers memory クリシェール @kurisyeru

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