9.結

 平成の終わりに拘るなら何で冬休みでも春休みでもなくてこの夏だったのか。


 と思っていたらあの姉と来たら夏が終わった途端にアメリカに飛びやがった。知らないうちに交換留学生に選ばれていたらしい。1年は帰ってこないとの事だった。


 大事な事を隠していた事もだけど、こんなにあっさりといなくなるなんて、全く薄情な人だ。



 彼女の旅立ったアパートで、僕は一人で一人分の紅茶をいれる。冷凍庫の色とりどりのフルーツアイスから適当に1つ選んで食べる。


 本当は僕はコーヒー派だし、アイスはバニラが一番好きだ。


 苦い香りが苦手な誰かに気遣う必要もなく、優柔不断な誰かと分け合うわけでもない。そのはずなのに。


 彼女のいないこの部屋で、彼女の残り香は今も色濃く漂っている。


「嫌になっちゃうなぁ」


 深いため息が口をつく。


 姉はさっさと世界に足を踏み出したというのに、僕と来たらこの体たらく。結局僕が誰より姉離れを出来ていないと言うそれだけの話で、これでよく彼女に偉そうに物を言えたものだ。


 彼女が日本に戻ってくるまで……いや、この平成が終わるまでには、せめてちゃんと一人で立たなければ。


 まず何から始めようかと思案する。


 窓の外では、松虫がチンチリとまだ見ぬ雌を呼んでいる。


 秋の日が、赤く赤く暮れていく。

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僕と彼女の二重螺旋 加香美ほのか @3monoqlo

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