泥沼に置いた砂細工

 円形闘技場で闘士達が戦い、観客が熱狂している。勝負がついた時、敗れた側がまだ生きていたら、殺すか生かすか観客の声を元に主催者がその場で判断を下す。……本作の悲劇は、負の連鎖は当然のこととして、主人公が闘士でもあり観客でもあったことだろう。単に闘士なら本人の葛藤は人生の壁としていっそ成長の糧になっただろう。観客なら達観すればいいし、終われば帰るだけだ。同時に両者になってしまったら、自分の闘いを自分で裁かねばならない。『内省』だの『思索』だのといった生ぬるい代物ではない。自分に下す裁きからは逃れられない。主人公の同僚はその矛盾を指摘したのだ。厳密には、その矛盾に耐えられないことを。せめて、主人公の同僚は本作の良識として生き延びて欲しい。合掌。