負の連鎖

青山えむ

第1話 負のエネルギー

 もしも嫌いな奴を呪える力があったらどうする――


 僕は嫌いな奴を、中々などん底に突き落とす事が出来る。

 僕が願うと、そいつは僕の想像通りになる。


 例えば会社での話。嫌な奴が僕の上司に決定した。

 確かにそいつは、そこそこ知識と技術がある。けれども人間としては最低な奴だ。

 周りはそいつに「クソ」とあだ名をつけている。ほぼ全員が、同じ気持ちだ。

 僕はそいつが上司になる事が嫌で嫌で、考えるだけで憂鬱になる。

 嫌で嫌で嫌で嫌で、対策を考えた。考えてもどうにもならない、会社の決定だ。

 僕は自分の気を、少しでも晴らしたくて、妄想の中で「クソ」を半殺しにした。

 

 妄想の中で「クソ」は、いきなり身動きが出来なくなる。

 金棒を持った会社の連中が、「クソ」を棒で叩き始める。

 「クソ」は、やめてくれと泣き叫ぶ。金棒を持った連中は、叩くのをやめない。

 今まで毎日「クソ」にいじめられていたKさんは、一層力を込めて叩いた。

 僕も一緒に叩いた。「クソ」が上司になる日までの数週間、毎日妄想をした。


 「クソ」が上司就任の初日、とても億劫だった。心なしか、職場全体がどんよりとしている。恐らく全員、同じ気持ちなのだろう。

 しかし「クソ」は中々姿を現さない。体調不良だろうか。

 数分後、会社に連絡が入った。

 「クソ」は足に大けがをして、長期入院が決まったそうだ。

 僕は心の中で喜んだ。きっと、他の社員も同じ気持ちだろう。


 数週間後、僕は足を捻挫した。

 きっとこれは、代償だと思った。妄想が叶った、代償。

 負のエネルギーは、負のエネルギーで支払うのだろう。

 「クソ」は骨折、僕は捻挫。


                  〇


 僕には少し、良い雰囲気になった女性がいる。

 僕からアプローチをして、お試し期間のような関係になった。

 ある日、彼女から突然別れを告げられた。本当に、突然。

 僕は理由が知りたかった。


「もう会わない」彼女が一言、メールで済ませた。

 電話をした。詳しい理由を云ってくれない。

 僕たちは、終わった。


 僕は落ち込んだ。友達に連絡をした。

 友達は、怒った。何をいきなり、と。

 友達が怒って、僕はびっくりしたと同時に、嬉しかった。

 僕の為に、怒ってくれたのだ。


 数週間後、彼女が交通事故に巻き込まれたと聞いた。軽傷で済んだらしい。

 僕は彼女の不幸を願ってはいないし、妄想もしていない。

 しかし彼女の事故の話を聞いた時、本当は少し「ザマーミロ」と思ってしまった。


 ある日突然、車のバッテリーが上がった。

 車検を済ませたばかりなのに、ディーラーも首をかしげていた。

 僕の本心が、負のエネルギーを生み出していたのか。

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