未だ青い、恋

たいだす

気づき、僕

これは賭けだ。彼女はいつも僕を見てる気がする。

それなら気づくはずなのだ。


自分でも馬鹿らしいと思いながら、僕は机上にペンケースだけを放置し、教材だけを持ち教室を出た。

彼女は廊下にいた。視線を感じた。

気づいている、そんな確信を持った。

そして彼女は言った。


「K君、筆箱持って無くない?」

「あっ!」


やった。やったぁ。

このやりとりがしたかった。

僕は彼女に指摘してもらいたかった。わざと発した「あっ」に彼女はあはは、と笑った。


その瞬間に思った。

好きだ。

僕はこの子が、やっぱりずっと、好きなのだ。


感情があふれた。耳が赤くなるのがわかった。

僕の癖だ。

彼女はそれにも気づいているだろう。彼女の席から僕の姿は授業中でさえ眺め放題だもの。

近頃は彼女に見られているだろうと思ってさらに赤みが増す、そんな気がしていた。



彼女が僕の事を好いているのは随分前から分かっていた。いつからだったか、僕も好きになっていたのだ。

学校に来るのが楽しくなった。彼女が休むと帰りたくなった。

朝、布団でぐずぐずする時間が短くなった。遅刻したら彼女と同じ電車に乗れない。


もう熟したと思った。この賭けに勝った、「あっ」と発したこの瞬間。僕は大胆になっていた。後悔はしていない。いや、するはずがない。


いま、僕は、ぼくは。君の唇を奪った。

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未だ青い、恋 たいだす @taidasu122

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