貴方色に、染まっていく

紅絹ウユウ

第1話

 今日も筆を走らせる。

 少しざらざらするキャンバスの上で、気持ちよさそうに絵の具が躍る。擬態語でも私はそれを想像してしまうから、もっと楽しくなる。

 ちりん、とドアのベルが鳴った。

 私は遠慮なんて欠片もなく、どうぞ、と返した。貴方は今日も来てくれた。すぐに匂いで分かったよ。

「こんにちは、今日は何を描いているの?」

「ええとね、今日は空だよ。とても晴れた空。」

 これは私たち二人のお約束。そう思っているのは私だけなのかもしれないけれど、ただなんとなく過ぎていくこの時間が、私は大好きだった。

 貴方は来る途中に雨に濡れてしまったと愚痴を漏らした。

 なるほど。だからこんなに空気が湿っているのか、と一人で腑に落ちる。

「君の中ではこんなにも空が晴れているのにね」

 冗談めかしく君は言った。

 私は口端を横に伸ばしてふふ、と笑った。気付いてないふり、上手でしょ?そんなところさえ愛おしく思えるほど、私は君のすべてが大好きなのだけれど。

「結局、君は何色が好きなの?」

 何、その愚問。分かるわけないじゃない。だって、私には答えなんて見つからないんだもの。

 でも私は少し悩んだふりをして、意気地が悪そうに言葉を放つ。

「私は貴方きみ色が好き」


 もしも私、目が見えるのなら。

 君のその気恥ずかしそうな表情かおも、仕草も全部。私のものに出来るのにな。なんて、自然と眉が下がった。


 でも、想像するのも楽しいし、ま、いっか。

 私は紫色の付いた絵の具を持って、キャンバスの中の茶色の空にまた、筆を走らせた。

 明日も、きっと貴方きみ色に染まる。

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貴方色に、染まっていく 紅絹ウユウ @momiuyu_0819

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