【カクヨム限定描き下ろし短編】悪役令嬢らしく好感度を上げます



 サヤカはキャンサーをじっと見つめ、思ったことを口にした。

「やっぱ、出てくるはずないよねえ」

 そのつぶやきを聞いたジルが、首をかしげてサヤカを見つめてくる。

「何がですか?」

選択肢せんたくし

 乙女おとめゲームなら必ずと言っていいほどあるシステムだ。ゲームの世界に来たのだから、出てきたりしないだろうかと、ふと思ったのだ。

 キャンサーもサヤカの答えに不思議ふしぎそうな顔をしている。

「サヤカさま。僕、何か変ですか?」

「あ、違うの、そうじゃないの! 不躾ぶしつけに見つめてごめんね!?」

「いえ。ただ……」

 キャンサーはみを浮かべたが、少し悲しげな上目遣うわめづかいでサヤカを見た。

「見つめるなら、もっと冷たい目で見てほしいなって思っただけです……」

「違う、そうじゃない」

 思わず真顔になって低い声でつっこむと、キャンサーは今度こそうれしそうに笑った。

「その調子です! もっと雑魚ざこを見るような目だと僕、嬉しいです!」

可愛かわいい顔で何てこと言うの!?」

「――で、何なんですか、その選択肢とは?」

 質問はしているが、まったく興味がなさそうなジルの目をあえてスルーし、サヤカは喜んで答えた。

「だいたい三つの選択肢が出てきて、選んだ答えで、好感度が上がったり下がったりするの!」

「これ以上、下げるんですか?」

「上げたいの! ――待って今これ以上って言った!? ジルの私への好感度、もう底辺!?」

冗談じょうだんです。あなた以上の人など俺にはいませんよ」

 一欠片ひとかけらも心のこもっていない言葉でなだめられる。雑だが、対応される程度の好感度はあるようだと前向きに思っておく。

 サヤカの前に、キャンサーの無邪気むじゃきな笑みが現れた。

「じゃあ僕、サヤカさまに質問しますよ! 選択肢を三つげればいいんですよね?」

「そうそう。でも……いいの、キャンサー? 私はその難関をいくつもくぐってきた女よ?」

 実生活では無駄むだな特技だったが、こんなところで役立つとは。思わず芝居しばいがかった仕草で髪をき上げ、ドヤ顔になってしまう。

 そんなサヤカを見た途端とたん、キャンサーは赤くなった両頬りょうほおに手を当てた。

「サヤカさま! その顔とっても素敵すてきです! 僕の好感度爆上ばくあがりです!」

「まだ質問されてないし答えてもいないんだけど!?」

 サヤカをうっとりと見つめるキャンサーを見て、ジルがため息をいた。

「本当に、どうしてこうなってしまったんでしょうねえ……」

「何で私を見るの!? わ、私のせいじゃないってば!」

 そのはずなのに、ジルの視線から思わず目をらしてしまう。しかし疲れたような彼の表情が気になり、サヤカは再び彼に視線を戻した。

「こう言っちゃなんだけど、敵がこう……アレなことになってたら、嬉しいとか思わないの?」

 冷静なジルのひとみが少しだけれた気がしたが、彼はすぐに冷たい笑みを浮かべた。

「自分が敵対する者に品位を求めるのは、そうおかしなことではないと思いますが?」

「ごもっともです……」

(でも、何か引っかかるような……? ジルが聖騎士せいきしきらってる理由って、何なんだろ?)

 いつか、その理由を話してくれるだろうか。

(それにはまだ好感度が足りない……なーんて、現実はそう簡単にはいかないよね)

 心の中で冗談じりにそう思いつつ、少し残念な気持ちになっていると、ジルはかがやくような微笑ほほえみをサヤカに向けてきた。

「あなたが残りの聖騎士の力をできるだけむごたらしく奪ってくれれば、俺のあなたへの好感度は天まで上がるんですが、どうですか?」

「何その地獄じごくの選択肢! 絶対選ばないからね!?」

「それは残念です」

 サヤカがさけぶと、ジルは小さく笑い声をこぼす。少しほころんだその口元に、サヤカの中で好感度の上がる音が小さく鳴った気がしたが、必死に幻聴げんちょうだと言い聞かせた。

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悪役令嬢らしく、攻略対象を服従させます 推しがダメになっていて解釈違いなんですけど!? 時田とおる/角川ビーンズ文庫 @beans

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