悪役令嬢らしく、攻略対象を服従させます 推しがダメになっていて解釈違いなんですけど!?／時田とおる

第三章 推しの唇なんて恐れ多くて触れない２

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「では、次は誰（だれ）の力を奪いましょうか、サヤカ」

　朝食を済ませて、ジルが目も眩（くら）むような目映（まばゆ）い笑顔でサヤカを見つめた。

「また嬉（うれ）しそうに、そういうこと言う……」

「と、一応訊（き）きはしましたが、ここはレオでしょうね。このまま奴がこちらを放っておくとも思えません。それに……」

　ジルがサヤカから視線を外（はず）す。その視線の先には、今まで笑顔で食事をしていたキャンサーが、真（ま）っ青（さお）な顔で滝のような汗をかき、ガタガタと震（ふる）えていた。

「そうだった、僕、殺される……！　あわわわ……っ！」

　キャンサーはレオに頼まれてここに来た。レオは確かにキャンサーを怒（おこ）るかもしれないが、それほど怯（おび）えることだろうか。

「そ、そんなに怖がらなくてもいいんじゃない……？　だってあなた達、仲間でしょ？　キャンサーが説得したら、呪（のろ）いのことも理解してくれたり――」

「無理です」

　考えるまでもなかったらしい、即答だった。

「絶対、無理です。レオは聖騎士（せいきし）としてのプライドも高いですから、僕がサヤカさまに忠誠（ちゅうせい）を誓（ちか）ったことを許してくれないだろうし……」

　言いながら、キャンサーは寂（さび）しげに目を伏せる。

「今のあの人に、僕が仲間って意識はないと思います。僕もあんまりなかったし……」

「でも、レオに頼まれたからここに来たのよね？」

「殺されたくなかっただけです。ってあの人、聖騎士最強ですよ!?　僕は聖騎士最弱！　ひねり潰（つぶ）されます、比喩（ひゆ）じゃなく！」

「比喩じゃないの!?」

　怯えた様子のキャンサーを見ると、それが本当のように思えてしまう。

「でも、レオは本来、そんな人じゃなかったはずでしょ？」

　サヤカの声に、キャンサーも顔を上げて頷（うなず）いた。

「……ええ。そうです。確かに偉（えら）そうで威圧感（いあつかん）もあって怖かったけど、本当は面倒見がよくて、最弱の僕を鍛（きた）えてくれたのも、レオ兄（にい）――あっ、レオ、なんです」

　キャンサーは慌（あわ）てて言い直す。少し頬（ほお）が赤くなっていた。二人の仲の良さが窺（うかが）える呼び方に、サヤカはテーブルの下でぐっと拳（こぶし）を握（にぎ）り締めた。

（レオ兄いただきました！）

　ゲーム中でもキャンサーがレオを兄のような存在として敬（うやま）っていたシーンがあった。それを思い出してサヤカは緩（うる）む口元を抑（おさ）えきれず、大きく頷（うなず）く。

「うんうん、そうよね！　レオはそういう騎士よね！　レオもきっと呪いのせいで性格が歪（ゆが）んでるよ。なら、放っておけない」

　サヤカが強くそう言うと、ジルが口元に笑（え）みを浮かべてうなずいた。

「では、まずは今、レオがどういう状況（じょうきょう）なのか知る必要があるでしょう。ですが馬鹿（ばか）正直に正面からぶつかれば、ひねり潰されるだけです。キャンサーが」

「僕が!?　……僕か」

「そうならないための術を、お前は持っているだろう」

　ジルの言うことを即座に理解したキャンサーは、パッと顔を明るくしてサヤカを見つめる。

「そっか、変装（へんそう）していけばバレない！　そういうことなら僕に任せてくださいサヤカさま！」

（本当に、笑顔だけは天使なんだから……！）

　うっかり拝（おが）んでしまいそうになる天使の笑顔で、キャンサーは続ける。

「サヤカさまは絶対、ヒール履（は）いてくださいね！」

　彼の期待が手に取るようにわかり、サヤカはテーブルにごんと額（ひたい）を叩（たた）きつける。

「……この性癖（せいへき）の歪みも呪いのせいにしてしまいたい……！」

「さすがのテュポンも迷惑（めいわく）がりますよ」

※この続きは文庫でお楽しみください。